8月13日、ドイツのグリューンハイデにあるテスラのギガファクトリー建設現場を訪れたイーロン・マスク(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

(黒木亮・作家)

 今、世界で最も注目を集めている自動車メーカーは、シリコンバレーを本拠地にするEV(電気自動車)専業のテスラであることに異論の余地はないだろう。同社は昨年7月、時価総額でトヨタ自動車を抜き去り、自動車業界の世界首位に躍り出た。2020年の販売台数は50万台で、992万台のトヨタの約20分の1にすぎないが、EVの販売台数では2位の上海汽車集団、3位のフォルクスワーゲンに倍以上の差をつけて世界一だ。

 創業してわずか18年の新興自動車メーカーがなぜ株式市場でトヨタ以上に評価されるのか。筆者は今般上梓した『カラ売り屋vs仮想通貨』(KADOKAWA刊)の中の1編『電気自動車の風雲児』で、その軌跡を小説化した。

「モジュール化」という産業革命

 自動車製造業は、巨額の工場建設コスト、高度な製造ノウハウ、生産台数が少なくても協力してくれる数千社の部品サプライヤー、広範囲な流通ネットワークなどが必要である。マイクロソフトのようなソフトウェア開発業や楽天のようなインターネットのショッピングモール、あるいはアップルのような携帯電話製造業などに比べても、桁違いに参入障壁が高い。しかし、「モジュール化」によって、それが一気に下がった。

 モジュール化とは、機能ごとに共通化されたパーツを組み合わせ、手早く製品を作ることだ。ガソリン車の場合、3万点を超える部品からなるが、EVは、モーター、バッテリー、制御装置、コクピット、充電器といった標準化された基幹装備(モジュール)を外から持ってきて、それを組み合わせて製品化する。工程は著しく単純で、車台の底にバッテリーパックを敷き、車輪の横にモーターを取り付け、モジュール化された部品を組み込み、ボディをかぶせれば出来上がる。ちょうど市販のパーツを買ってきて、パソコンを組み立てるようなものだ。