お客さんが関係ない話題を持ち出したら、耳を傾けつつ、情報収集をします。高齢の男性が、パソコンが世界を荒廃させているから自分は持っていないと言ったのを聞き、ホップは複雑な高精細テレビを男性に見せるのは意味がないと判断しました。
ある若い女性は、小さな子どもたち4人を母の家に車で連れて行ったら渋滞がひどかった、といらだちながら愚痴を言いました。それを聞いたホップは、汚れや食べこぼしに強い、耐久性の高い素材でできたソファへと女性を案内したのです。
「人に好きなだけ話してもらうなんて、時間が余計にかかりそうだと思うかもしれません。でも実は、その方が早いし楽なうえ、間違いも減ります」とホップは話しました。
さらに私は、お客さんが警戒心を解き、彼を信頼していく様子にも気づきました。「人の話を聞いていると、その人のためにきちんと応対したいと思うようになります」とホップも言っていました。お客さんの話を聞きたいという彼の姿勢が、お客さんに伝わっているようです。
ほとんどの話には間がない
ホップについていちばん印象的なのは、彼は沈黙を受け入れる力が並外れて高く、ホートン夫妻のようにお客さんが無言でも、まったく平然としているところです。こうした性質の人にはなかなかお目にかかれません。
欧米文化では、会話に間(ま)が生まれるのをひどく居心地悪く感じる傾向があるため、なおさらです。英語ではこれを、「Dead air」(死んだ空気)と表現します。
ためらいや間は耐えられないほど気まずく、積極的に避けるべきものであると考えられているのです。話者が話を終えそうな様子を少しでも見せようものなら、その人がまだ意見を言い終わってもいないのに、人は言葉を挟みこんできます。
英語の会話にみられた5万件ほどの沈黙や話の転換を、研究者がグラフに落としたところ、マイナス1秒とプラス1秒の間に大きな釣鐘曲線ができました(マイナスの数字は、話している人が言葉を言い終わらないうちに誰かが話し始めたことを意味しています)。
頂点は0~200ミリ秒で、つまり話者が切り替わるときに沈黙がまったくなかったか、あったとしても瞬きよりも短い時間だったということです。オランダとドイツの話者について行った研究でも同様の結果でした。
対照的に日本人は、もっと長い間をとって会話をします。研究によると、日本のビジネスパーソンは、アメリカ人が我慢できる長さ(4.6秒)よりも倍近い長さ(8.2秒)の沈黙に耐えることが示されました。
医師と患者との会話に含まれる沈黙の割合は、アメリカの8パーセントと比べ、日本ではずっと多い30パーセントとなります。アメリカでは、「きしむ車輪は油を差される」(声高に主張すれば要求が通る)と言いますが、日本では、「賢者は黙して語らず」と言われています。