家具店で販売員グレッグ・ホップは接客中にほとんど沈黙を貫く。しかし彼はその店の売り上げナンバーワンなのだ。「人に好きなだけ話してもらうなんて、時間が余計にかかりそうだと思うかもしれません。でも実は、その方が早いし楽なのです」とホップは言う。(JBpress)
※本稿は『LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる』(ケイト・マーフィ著、篠田真貴子監訳、松丸さとみ訳、日経BP)より一部抜粋・再編集したものです。
凄腕営業マンの重たい沈黙
あれは、クリスマス前の買い物シーズンでした。テキサス州ヒューストンにある家具店ギャラリー・ファニチャーで、ピカピカに磨かれたチェリー材のダイニング・テーブルを前に私は座っていました。
そこには、この店舗で売り上げナンバーワンの販売員グレッグ・ホップも腰かけていました。この店は年商2億ドル以上の巨大店舗です。それを考えると、ホップがどれだけすごいか、おわかりいただけるでしょうか。
私たちと一緒にいたのは、ホートン夫妻でした。72歳のホートン夫人は、ためらいがちに椅子の隅にちょこんと腰をかけて、83歳の夫ホートン氏はその背後に立って、ウェスタン・ブーツをかかと、つま先、かかと、つま先と揺らしていました。ふたりは、朝食用のスペースにこのテーブルの購入を考えています。先ほどホップに見せてもらった整理だんすも、ゲスト用の寝室で使うために検討中です。
ふたりはどうやら決めかねて困っているようで、ここ5~10分ほど、ひと言も発していません。重たい沈黙が続き、私はじっとしていられなくなってきました。
私は単に見学のために同席していたのですが、自分を抑えるのに必死でした。夫婦にそっとひと言言ったり提案したりしたら、決断してくれるのではないか、と。
ホップの給料は、1日の売り上げに連動する歩合制です。買い物客が大挙して押しよせるクリスマス前の書き入れどきで、ホップが見込み客を取り逃しているのは私から見ても明らかでした。
でもホップの表情は穏やかなまま
でも、ホップの表情は、まるで風のない日の湖面のように穏やかでした。彼は夫婦を、心から気にかけた面持ちで見つめています。うるんだ瞳は、大きなめがねの奥でより一層大きく、思いやりに満ちているように見えました。