ショッピングセンター「大和リバーサイドタウンPio」の全景

(鶴岡 弘之:JBpress)

 いやだ、いやだ。また今日も憂鬱で絶望的な1日が始まる。嶋﨑広(しまざき・ひろし)さんは仕事に出かけるのが苦痛で仕方がなかった。

 嶋﨑さんの仕事はメガネ屋の店員である。父親が始めたメガネ屋「シマザキメガネ」で働いている。岐阜県郡上(ぐじょう)市の「大和リバーサイドタウンPio(ピオ)」というショッピングセンターの中にあるメガネ屋だ。仕事は面白くない。土日も働かされるし、給料も安い。気に食わない客もやって来る。この間も不愉快な客が来たからいい加減な態度で接していたら、父親がその客に病院で会って「あんな馬鹿がやってたら、すぐにつぶれる」と言われたらしい。父親は自分のことをまったく使えない奴だと見限っているに違いない。

 なにしろここは田舎すぎる。日が暮れたらどこも真っ暗。レストランもない。カラオケ屋もない。あるのはコンビニだけ。こんな田舎の弱小小売店に未来があるわけがない。一刻も早くこの毎日から逃げ出したい。

 嶋﨑さんはすっかり腐り切っていた。やめてやる、やめてやる──。

 そんな嶋﨑さんが別人のように生まれ変わることを、一体誰が予想しただろうか。商売の面白さと、自分たちの手で地域を盛り立てていくという思いに目覚め、経営者として日々研鑽する姿を誰が思い描いただろうか。

人口減少の山里で売上を拡大

「奇跡のショッピングセンターがあるんですよ」──そう教えてくれたのはサトーカメラ(栃木県宇都宮市)副社長の佐藤勝人さんだ。サトーカメラは北関東でカメラ販売の圧倒的シェアを誇るカメラチェーンである(参考「喧嘩上等のカメラ店が素人に教わった商売の極意」)。佐藤さんはサトーカメラの経営を切り盛りすると同時に、全国を飛び回って地方の中小企業の経営コンサルティングを行っている。そうした地方企業のなかの1社が郡上商業開発だ。大和リバーサイドタウンPio(以下「Pio」)の運営企業である。

 一体、Pioのどこが奇跡なのか。まずPioは、人口の減少が進む山里でありながら売上を拡大している。2000年に4万9000人だった郡上市の人口は2020年には約4万人にまで減少した。しかし、この間に売上は約17億円から約20憶円へと増加した。コロナ禍の2020年も客足は衰えず、購買客は年間100万人を超えている。「6000人の商圏人口で購買客が年間100万人というのはすごい。100万人のうち9割は地域のお客さんです。こんなショッピングセンターは他にはないですよ」と佐藤さんは説明する。

 業績自体も奇跡的だが、Pioにはもう1つ目を見張る点がある。ショッピングセンター内にあるすべての店で、経営が代替わりしたことだ。