社長に就任した嶋﨑さんは、他の店主たちと「これから、どんなショッピングセンターにしていくのか」「郡上の中でのピオをどんな存在に位置付けるのか」を話し合った。

 そこで確認したのは、「買い物をするだけの場所ではなく、地域住民がいつでも気軽に足を運べるサードプレイス(地域住民にとって心地よい、自宅や職場以外の第3の場所)にしていこう」ということだ。「若い人もお年寄りも、独りぼっちのおじいちゃんもおばあちゃんも、ここに来ればほっとできるような、居心地のいい場所にしたい。お金儲けをするだけではなく、地域の人にとってなくてはならない場所にしたい」と嶋﨑さんは語る。

 2020年3月の全館リニューアルに伴ってオープンした「Pio Terrace(ピオテラス)」は、その思いを具現化したスペースだ。ピオテラスにはカフェショップがあり、店員がその場で淹れたカフェを販売している。ただしカフェを注文しなてくも、ピオテラスを誰でも利用できる。他の店で買ったパンやお弁当、総菜などを持ち込んでもかまわない。「お年寄りはもちろん、高校生も子供を連れた若いお母さんたちも、ここに来ておしゃべりをしています。以前では信じられないほど、Pioに若いお客さんがやって来るようになりました」(加藤さん)。

全館リニューアルに伴いオープンしたPio Terrace(ピオテラス)

 そして、「世の中のデジタル化への対応」も嶋﨑さんが掲げた新しい方針である。「田舎だからといって、古くさい場末のスーパーみたいな感じにはしたくありませんでした。日本で最先端のショッピングセンターにしていきたいんです」という。現在、PioではPayPayはじめ各種キャッシュレス決済に対応し、フェイスブックやインスタグラム、YouTubeなどを利用した情報発信も各店が積極的に行っている。「他のショッピングセンターに先駆けていろいろなことにチャレンジして、もっともっと面白い場所にしていきたい」と嶋﨑さんは意気込む。

嶋﨑広さん(左)と加藤三保子さん

引き継がれた思い

 こうしてPioは新世代に引き継がれた。嶋﨑さんは、「ここは100%代替わりをした全国唯一のショッピングセンターだと思います」と語る。完全に代替わりはしたが、Pioを立ち上げた親たちの「地域の手で地域を盛り立て、地域住民の生活を支えていく」という思いは、今も引き継がれている。

 佐藤さんも加藤さんも、「嶋﨑さんがこれほど変わるとは思わなかった」と口を揃える。嶋﨑さんも自分で驚いていることだろう。

 だが、誰一人として嶋﨑さんの覚醒を信じていなかったわけではない。

 佐藤さんは、先代社長の嶋﨑栄治さんと初めてじっくり話をしたときの会話をこう振り返る。先代社長と嶋﨑さんが、まったく口をきいていなかった時期だ。

 佐藤さんが「あなたの息子は可能性がありますよ、絶対に伸びますよ」と言ったら、いつもは怖い顔をしている栄治さんが「そうですかぁ」と言って頬を緩め、にっこり笑った。本当に嬉しそうな顔をした。その顔を見て佐藤さんは、ああ、やっぱり息子を信じているんだな、息子が頑張ってこのショッピングセンターを盛り上げてくれることが、この人にとっていちばんの幸せなんだな、と思ったという。

 父親は、紛れもなく誰よりも嶋﨑さんの可能性を信じて、大きな期待を寄せていたのだ。