その顔は、ホートン夫人が6年ほど前に骨折して以来、いまだに足が痛むと言ったのを聞いたときと同じ表情をたたえていました。その面持ちは、ホートン氏が韓国での兵役中の思い出について、「徒歩で巡回したとき、ここまで泥に浸かって……」とふとももの真ん中を指しながら「そのあと雨が降ってきて、凍るほど寒かった」と語るのを聞いていたときとも変わりません。
気まずい沈黙の中、このふたりは何も買わないもの、と私がまさに確信した瞬間、ホートン夫人が口火を切りました。
テーブルも買うし、おそろいの椅子、あぁそれから整理だんすも、何だったらテレビ台も買うわ、ほら、ついでだから。
私は目が点になりました。30年間家具を売り続けているホップは、動じていません。
「黙っていることを学んだんです」と、夫婦をレジまで送り届けたあと、ホップは話してくれました。
「あそこで座っていたときに私がもし言葉を発していたら、間違いなく、ふたりは整理だんすしか買わなかったか、もしかしたら何も買わなかったと思いますよ」
お客さんに話してもらった方が早い
ギャラリー・ファニチャー店内は、遊園地のような雰囲気です。かごに入ったオウムや猿がいて、ケーキやキャンディが無料で配られ、大量のマットレスを敷き、子どもたちが飛び跳ねて遊べるようになっています。
ギャラリー・ファニチャーのジム・マッキンベール店長は、地元では「マットレス・マック」として知られています。彼はテレビ・コマーシャルの中で、両手に現金を握りしめてマットレスの上で飛び跳ね、「ギャラリー・ファニチャーなら節約できます!」と叫ぶような人物です。ホップのたたずまいは、こうした雰囲気にまったくしっくりきません。
ホップは、もっと物静かです。
お客さんが検討中だったり迷ったりしているとき、あえて店内の比較的静かな場所へと導き、そこで話し合うなり、黙りこむなり、お客さんの好きなようにしてもらいます。邪魔したり、セールストークをしたり、おべっかを使ったり、お客さんの発言を正したり、口を挟んだりはしないのです。