九州出身の人にはおなじみの味だろう。濃厚でありながら、臭みがなく、くせのない豚骨スープ。スープの表面に漂う褐色のタレ「千味油」の香ばしい匂いが、食欲をそそる。熊本ラーメンの代表格の1つ、味千(あじせん)ラーメンである。
〒861-8031
熊本市戸島町920-9
1967年、台湾出身の重光孝治氏が、熊本県庁のそばに広さ7坪、席数が8つという小さなラーメン店を開いたのがスタートだった。現在、熊本を中心に国内で約100店のフランチャイズ店を展開する。
味千ラーメンを食べられる国は日本だけにとどまらない。中国の約320店をはじめ、フィリピン、タイ、インドネシア、米国、オーストラリア、カナダなど、海外店舗数は国内の3倍以上。約380店舗(2009年2月現在)に達する。味千ラーメンを展開する重光産業(熊本市)は、九州有数のグローバル企業なのだ。
2代目社長の重光克昭氏は、世界市場をさらに切り開くために各国を飛び回っている。熊本生まれの味千ラーメンがこれだけ世界に受け入れられたのはなぜか。海外進出を成功させるポイントを重光社長に聞いた。
台湾店で失敗、知らない間に味が変わってしまっていた
──1994年に台湾に店をオープンして、初めて海外に進出しました。海外進出のきっかけを教えてください。
重光 創業者である父親の思いですね。父親が存命中にテレビのインタビューを受けた時に、「ラーメン大好き人間を世界中に作りたい」と言っていました。お金儲けをしようとして海外に出ていったんじゃないんです。自分が作り上げた味千ラーメンを世界中のたくさんの人に食べてほしいという純粋な思いでした。いつかはパリのシャンゼリゼ大通りに店を出したいなんて夢も描いていたようです。
なぜ最初が台湾かというと、父親は台湾の出身ですから、台湾に知り合いが大勢いました。また、ぜひ台湾で店を出してくださいという声もありました。そんな時に、一緒にやってくれる現地のパートナーが見つかりまして、一緒に店を出すことになったのです。
合弁会社を作っての出店です。直営という形にはしませんでした。僕らが最初から直接、海外に出ていって店を出すというのは難しいですよね。お金もかかりますし、その土地の事情もよく分かりません。やっぱり現地に住んでいる人の意見を尊重しながら、一緒になってやっていこうということになったんですね。そのスタンスは今も変わりません。