現在、「もっとも高価な宝石」と呼んでもいいダイヤモンドですが、ずっと昔はそうではありませんでした。というのも、ダイヤモンドは研磨やカットという技術がなければあの輝きは生まれません。大昔、ダイヤモンドの産出地はインドだけで、そこからヨーロッパに持ち込まれたので希少なものでしたが、高価な宝石というよりも、硬くて正八面体の、神秘的な石というものでした。ルビーやエメラルドのほうがはるかに価値があるとされていたのです。

 ダイヤモンドは原石のままでは、その魅力の半分も発揮しない石なのです。ダイヤモンドの研磨やカットの技術が発達し、「高価な宝石」という地位が与えられたのは、それよりあとです。正確な記録は残っていませんが、14世紀にはその技術が確立していたようです。

 現代においてダイヤモンドの集積地とされる都市は、世界に何カ所かあります。主要なところを挙げれば、ベルギー、ニューヨーク、イスラエル、インド、イタリア、フランスなどです。

 こうした場所でのダイヤモンド産業の確立に深く関わったのは、セファルディムと呼ばれるイベリア半島系のユダヤ人でした。彼らはスペインやポルトガルから追放されてしまい、他国に移り住むことを余儀なくされました。世界各地に散らばったセファルディムは国際的なダイヤモンド貿易のネットワークの形成に成功したのです。

 ではそのセファルディムは、いつごろからダイヤモンド産業に関わるようになったのでしょうか。今回はそのあたりから話を進めていきたいと思います。

イベリア半島のユダヤ人が辿る苦難の歴史

 セファルディムについて説明する際に、イベリア半島の歴史を避けて通ることはできません。

 現在、イベリア半島の大部分を占めているスペインは現代ではカトリックの国ですが、イベリア半島は長い間、イスラーム勢力に支配されていた時代がありました。

 イベリア半島に最初にイスラーム勢力が進行したのは、8世紀のことでした。711年、ウマイヤ朝が北アフリカからイベリア半島に攻め込み、この地を支配していたカトリックの国である西ゴート王国を破ります。一時期はイベリア半島のほとんどがイスラームの支配下に入ります。西ゴート王国の貴族がイベリア半島北部で718年に建国したアストゥリアス王国だけがキリスト教圏として残されました。