「大谷はビッグマネーを求めるようなタイプではない」

 しかし、こうした“飛び道具”を用いたとしてもヤンキースは大谷を再来年オフ、本当に獲得できるのだろうか。現在のところ相反して「たぶん彼はエンゼルスに残る」というのが、現地メディアの共通見解のようだ。

「エンゼルス側は大谷がこのまま中心選手として活躍し続ければ2024年以降もまず間違いなく契約を更新する。そのためには巨額の資金が必要になり、サラリーキャップ超過でラグジュアリータックス(ぜいたく税)を支払わなければならなくなる可能性も出てくるが、それを極力回避するため他の高年俸選手を“整理放出”してでも大谷との契約を優先させるだろう。再来年オフのFAよりももっと前の時期から水面下で下交渉が開始されるはず」とはアナハイム近郊アーバイン在住の米国人ビートライターの指摘だ。

 大谷が4年前にヤンキースのオファーを“ソデ”にした際、西海岸を拠点とする小規模マーケットの球団への入団を希望してエンゼルスと契約を結んだのも「余計な重圧が比較的少なく野球に集中でき、なおかつ二刀流に対して寛容なチーム」という背景があったからとみられている。今もエンゼルスに居心地の良さを感じているからこそ、今季の大谷は投手と打者の両面においてここまで結果を残し続けているのだろう。

 しかしヤンキースはエンゼルスのように大谷に対して、そこまで「寛容」にはなれないはずだ。NYではエンゼルス時代と同じく「二刀流だから」という理由で投手・大谷の登板間隔を大幅に空けることもかなり難しくなる。スター選手が揃う先発ローテーションの兼ね合いやチームメート個々の顔色も窺わなければならず、中4日もしくは中5日で固定されることになるかもしれない。しかも順調なうちはいいが、いったん結果が出なくなればNYメディアは前記したように猛バッシングを開始する。一度火が付いたら、二刀流についても「投手か、打者かどちらかに専念すべき」との議論が沸き起こるのは必至だ。フロントも現場も我慢できなくなるのは、ほぼ目に見えている。

「大谷はビッグマネーを求めるようなタイプではない。そして何よりNYメディアによる外圧やクラブハウスの中で人間関係に悩まされる可能性のある伝統球団へ移籍するよりも、気持ちよく快適な環境下でプレーできるエンゼルスのほうがツー・ウェイ・プレーヤーとしての道を確立できることを彼は分かっている」とは前出のアーバイン在住ビートライターの弁。

 基本的に欲しいものは何でも手に入れてきた帝国ヤンキースだが、大谷の“牙城”を切り崩すのはかなり難しそうだ。そう考えると大谷は「生涯エンゼルス」を貫くことになるかもしれない。