ヤンキースを袖にした大谷

 いまさら説明するまでもないだろうが、名門ヤンキースは豊富な資金力を持つニューヨークの伝統球団。地元NYはもちろん全米各地でも幅広い人気を誇り、日本にもファンがいる。メジャーリーガーの中にもピンストライプのユニホームに憧れを抱き、ヤンキース入りを夢見るプレーヤーは数多い。日本人メジャーリーガーもかつて松井秀喜氏やイチロー氏、黒田博樹氏、伊良部秀輝氏らスーパースターたちが在籍し、昨季までは今季から東北楽天ゴールデンイーグルスへ復帰した田中将大投手が7年間にわたってヤンキースのローテーションを守り続けてきた。錚々たる面々が、このNYの伝統球団でプレーし、歴史を築き上げてきたことは今も我々の脳裏に焼き付いている。

 ところが、そんな名門ヤンキースには2017年オフ、北海道日本ハムファイターズからポスティングシステムを駆使する形でMLB移籍を表明した大谷の獲得に名乗りを上げたものの“相手”にされなかった苦い経験がある。

 大谷側から2次選考の面談許可が下りず、結果的に「NG」を食らったヤンキースのブライアン・キャッシュマンGMは当時「我々の用意したプレゼンテーションは素晴らしいものだった」と弁明。大谷の希望が西海岸を拠点とする小規模マーケットのMLB球団であることを暗に示唆し「我々はそれ(ヤンキースが大谷の希望にそぐわない条件となっていること)を変えることができない」とも口にしていた。キャッシュマンGMは大谷獲得に当初、自信満々だっただけに、あっさりとフラれる格好となったことでかなり大きなショックを見せていたのはまだ記憶に新しい。

ニューヨーク・ヤンキースのGM、ブライアン・キャッシュマン氏。2017年オフに大谷翔平獲得に失敗したが、再挑戦を考えていると伝えられている(写真:AP/アフロ)

 あれから4年弱、その大谷によって本拠地ヤンキースタジアムで痛烈なインパクトを与えられてしまったのだ。キャッシュマンGMら当時も編成に携わっていたヤンキースフロントとしては屈辱以外の何物でもないだろう。

 手厳しいことで有名なNYメディアも本拠地で大谷にインパクトを与えられたヤンキースへの辛辣な報道が目立っていた。その中でも「NYポスト」紙は、かつて獲得に失敗した大谷の現在の活躍ぶりと、ちょうど同じ2017年オフにフロリダ・マーリンズからトレードで加入した自軍の主砲ジャンカルロ・スタントン内野手が移籍2年目以降から低調続きであることを対比させ、ヤンキースフロントの「失策」として猛バッシングを展開した。

 メディアの力が想像以上に大きいNYではファンも報道に感化されてヒートアップしやすい。かつての獲得失敗で“ハートブレイク”を味わわされただけでなく、さらについ先日も自らのホームグラウンドで衝撃の3発をお見舞いされた大谷に対し、「帝国」ヤンキースもこのまま指をくわえて黙って見過ごすわけにもいかなくなってきた。

 今月12日(日本時間13日)に大谷は日本人選手として初めてMLBオールスター(コロラド州デンバー)のホームラン競争に出場が決定。翌13日(同14日)には球宴本戦にスタメンで初出場し、二刀流で起用されることも決まった。あらためて全米に「顔」を売ることになり、ここで一気に市場価値が青天井になるのは確実だろう。

 ア・リーグ東地区で首位争いから現在大きく引き離されているヤンキースにNYメディアがさらに批判を強め、ホームランダービーおよび球宴出場で大幅な価値高騰が見込まれる大谷の獲得を強く推していく流れにも拍車がかかりそうだ。