人々を驚かせたのが、次の例です。2021年5月、中国一の有名大学である清華大学卒業生が派遣家政婦として働いているというニュースが流れました(次の図)。このニュースは3.8億人が読んだといわれ、中国国内で大きく注目を集めました。
当初は「学歴に対し職種が不釣り合い」「派遣元企業のやらせではないか」という否定的な意見が目立ちました。ところが、後に該当の女性の収入が大卒初任給の約5倍の給与であること、実際の業務が子供の教育や雇用主の秘書業務に及ぶことが判明し、「新しいキャリア」の形であるという認識に変わりつつあります。
従来のエリート層とは異なる社会領域で、高い技能が求められ、それに応じた収入が得られることが、中国社会において生まれつつあるといえるでしょう。
多様なキャリアを認める社会に変化できるか
日本が1990年代から直面した就職氷河期では、採用の減少に伴いフリーターや非正規雇用が増え、収入の伸び悩みと不安定な雇用という負の側面を若者たちが経験することになりました。若者の働き方が多様化しているのは現在の中国も同様です。
躺平を低成長につながる警鐘と見なすのであれば、若者が活躍する機会の提供と、新しい働き方を受け入れる社会全体での価値観作り、の2点が重要になっていくでしょう。2021年の1月から、中国国内ではフレキシブルワーカー全体に適用される社会保険制度の構築が始まっています。あわせて、産後ケアの講師やeスポーツの運営など150以上の新領域の職業カリキュラムの制定が進められています。
躺平が一時の流行と終わるか、引き続き大きな社会問題となるかは、多様なキャリアを認めるという、中国社会の価値観変化にかかっているでしょう。