(英エコノミスト誌 2021年6月19日号)

基本に立ち返れば、ほかの種類のサイバー犯罪防止にも役立つ。
20年前なら飛行機のなかで読むくだらないスリラー小説のプロット(筋)だったかもしれないことが、最近では日常になってしまっている。
米国では、東海岸で使われる石油のほぼ半分を供給するパイプラインが、サイバー犯罪集団によって5月7日から5日間にわたって止められた。
所有者のコロニアル・パイプライン・カンパニーのもとには、再稼働させたければ430万ドルの身代金を払えという要求が届いた。
その数日後には同様な「ランサムウエア(身代金要求ウイルス)」の攻撃により、アイルランドのほとんどの病院がマヒ状態に陥った。
この種の攻撃は、ハイテク企業から学校、軍隊に至るまで、あらゆるところに影響を及ぼす「サイバー・インセキュリティー(サイバー空間への不安感)」がますます強まる新時代がやって来たことの証だ。
まず思いつくのは大災害の脅威だ。
これについては、航空管制や原子力発電所のシステムが狙われてダウンしたらどうなるかを考えれば分かるだろう。
だが、もう1つ、見つけにくい脅威もある。
サイバー犯罪が多くの産業のデジタル化を妨げ、世界中で生活水準を引き上げてくれるはずの革命を阻害することだ。
ランサムウエアを使った身代金奪取が初めて試みられたのは1989年のことだった。ウイルスはフロッピーディスクに仕込んであった。
サイバー犯罪はその後、ネットワークにつながる機器が増えるにつれて、そして地政学的な状況が安定でなくなるにつれて、悪化の一途をたどっている。
西側諸国はロシアや中国と対立しており、独裁国家のなかにはサイバー空間の悪党をかくまっているところもある。