(英エコノミスト誌 2021年6月12日号)

SNSや米国メディアのウエブ版が世界中に大きな影響力を及ぼしている

ブラック・ライブズ・マターのような運動が遠くハンガリー、ナイジェリア、韓国にまで広がった。

 アルトゥール・ド・ヴァル氏は大物になりたいだけだった。同氏は現職のサンパウロ州議会議員だ(ツイッターのプロフィールに誇らしげに書かれているように、2番目に多い得票数で当選した)。

 デモで左派をやじり倒して有名になった。これは米国で政治的な映画を撮っているマイケル・ムーア氏のドキュメンタリーから学んだ戦術だと本人は説明する。

 ド・ヴァル氏はそれ以降、ウエブ上で使いやすいコンテンツを精力的に制作する有能なプロデューサーになっている。

 チームを組み、ソーシャルメディアを通じて生み出す画像や動画は週当たりで数百点にのぼる。人々は楽しみたがっているのだから政治も楽しめるものでなければならない、と言ってはばからない。

政治起業家という新たな階級の誕生

 政治的な議論はおかしなミーム(インターネットを介して広がる文化や行動の総称)やばかげた動画で発信すべきだと言い、ド・ヴァル氏の場合、経済面で自由を重んじる思想を売り込むことと、左派への攻撃とに的を絞ることが多い。

「ロックスターになろうとして挫折し、格闘家に、そしてアスリートになろうとして挫折した。自分はただイライラしているだけのビジネスマンだった。そんな時にユーチューブを見つけ、自分の憤りを活用する機会がここにあると感じた」

 ド・ヴァル氏はそう説明してくれた。「ただ単に目立ちたかった。たまたま政治家の道に進むことになった」。

 全くの無名だったド・ヴァル氏は32歳という若さで州議会議員の地位を得た。なかなか実現することのない、見事な出世だ。

 だが同氏は、ミームや動画、スローガンでコミュニケーションを図る政治起業家という、国境を越えた新しい階級を体現する存在だ。

 この階級の人々はグローバルに流通するアイデアを取り入れ、地元の事情に合わせて加工し、再び世界へ解き放つ。

 多くは活動家か一般人で、自分のフォロワーと仲間同士の両方に影響を及ぼす最も重要な手段としてソーシャルメディアを利用している。

 その結果、非正統派の政治家という新しい階級が生まれただけでなく、政治思想のグローバル化も進むことになった。そうした思想の多くは米国生まれだ。

 米国の映画、テレビ、音楽は、世界各地で愛されている。米国の消費財のブランドは世界を席巻し、米国のソーシャルメディアのスターは世界的な影響力を誇っている。

 文化の面で広大な勢力圏を持つこの世界最強の国は、これまでもずっと、政治のトレンドや運動に非常に大きなインパクトをもたらしてきた。