(英エコノミスト誌 2021年6月5日号)

ブラジルには、現大統領の勝利に役立った政治制度の抜本改革が必要だ。
病院は患者であふれ、ファヴェーラと呼ばれるスラム街には銃声が鳴り響き、失業率は14.7%という記録的な水準に達している。
信じがたいことに、今日のブラジル経済の規模は2011年のそれより小さい。
その汚名を返上するには、6月1日に発表されたような好調な四半期を何度も繰り返さねばならない。
新型コロナウイルス感染症による死者の数は世界でも指折りの多さだが、ジャイル・ボルソナロ大統領は、ワクチンを打つとワニになるかもしれないぞと冗談を飛ばしている。
衝撃的なスピードの凋落
ブラジルの凋落は衝撃的なほど速かった。
1964~85年の軍事独裁が終わった後、同国は新憲法を採択して軍隊を政治の場から退かせ、新しい通貨を導入してハイパーインフレを終結させた。
そして新たな社会プログラムはコモディティー(商品)ブームと相まって、貧困と経済格差を緩和させ始めた。
今から10年前には、ブラジルはオイルマネーで潤っており、2014年のサッカー・ワールドカップと2016年の夏季オリンピックの誘致に成功した。
国の繁栄が運命づけられているかに思われた。
ブラジルはこの機会をつかみ損ねた。本誌エコノミスト今週号の特集記事にあるように、代々の政権が3つの過ちを犯した。
第1に、目先の利益にとらわれる短期主義に屈し、自由主義的な経済改革を先送りした。この失策の責任は主に、2003~16年に政権を担った左派の労働党にある。
労働党政権は、年率4%の経済成長率を達成していたものの、生産性を向上させる投資を行わなかった。そのため、コモディティー価格が下落すると、過去最悪の部類に入る景気後退に陥った。
ミシェル・テメル大統領が率いた政権とボルソナロ政権は改革をある程度前進させたが、必要なレベルにはほど遠かった。
第2に、ラバジャットと呼ばれる大規模な汚職摘発捜査の火の粉から我が身を守ろうとした政治家たちは、汚職の抑制に役立つ改革に抵抗した。
これについては、ラバジャットを推進した検察官や判事たちにも責任がある。彼らのなかに政治的な思惑を持った人がいることが露見すると、捜査が議会や裁判所で停滞してしまった。
最後に、ブラジルの政治制度が重荷になっている。
州規模の選挙区で、連邦議会に政党が30も乱立していることから、選挙にはカネがかかる。
実行する価値がある長期的な改革よりも、票が取れる派手なプロジェクトを支持する政治家が多いのは世の常だが、ブラジルでは特にその傾向が強い。
ひとたび公職に就くと、自分を当選させてくれた欠陥のあるルールにしがみつく。政治家は、訴追が難しくなる法的特権を享受し、権力を維持するのに役立つ大金を手に入れる。
その結果、ブラジル国民は政治家を蔑んでいる。2018年に行われた世論調査では、連邦議会を「とても」信頼しているという回答は全体の3%にすぎなかった。