(英エコノミスト誌 2021年5月22日号)

愛国心の高揚とモラル欠如の改善を期待する中国政府も、儒教教育に意欲的だ。
中国南部・湖南省の株州市にある花果山幼稚園は、ちょっと見ただけではほかの施設とほとんど変わらない。
明るい色に塗られた4つの遊戯室にはカラフルで柔らかいマットが敷かれており、積み木の入ったカゴがいくつか見える。
だが、上階にある教室は質素だ。
提灯がぶら下がり、壁と天井の境目に黒い瓦が1列貼り付けてあるところは、中国の昔の建物を彷彿させる。
園児たちも、マンダリンカラー(詰め襟)にフロッグ(飾りボタン)留めがついた淡青色の伝統的な上着を着ている。何も飾り気のない壁に、孔子の大きな肖像画が数枚貼られている。
昨年9月に開園したばかりだが、入園希望者が殺到し、すでに1年待ちの長いリストができている。
幼稚園は、中国全土で盛り上がっている「国学」人気にあやかっている。国学とは通常、古代中国の思想、文献、道徳、特に孔子に関係のある教えを学ぶことを指す。
花果山幼稚園では、子供たちがお辞儀の仕方を習い、道で会った時に丁寧にあいさつする方法を学ぶ。背筋を伸ばし、手は膝の上に静かに置く丁寧な座り方も教わる。
ある部屋では、キャラコの袋に大きな音を立てながら葉っぱを押しつけ、昔の染め物の作り方を習う。別の部屋では詩の朗読、書道の練習、茶の湯、中国のチェスなどに取り組む。
伝統への回帰
しかし、ここの先生たちに言わせれば、スキルを身につけるのは二の次で、大事なのは人格形成だ。
チェスでは「ライバルを尊重し、敗北を受け入れる」ことを学び、茶室では「壊れやすいものを茶碗と同じように大切にする」ことを体得するのだという。
外国のトレンドをありがたがる数十年間を経て、多くの人々がそうした伝統に興味を持つようになっている。
例えばテレビでは「中国詩詞大会」という、一般視聴者が漢詩のクイズに答える番組が放送されている。公の場に伝統的な衣装を着て現れる若者もいる。
教育がこうしたトレンドの中心にある。