「売上高1兆円」に立ちはだかる調達の壁

 それでは、生鮮品だけでなく、菓子やカップラーメン、調味料などの加工品はどうか。

 今後フードロス削減の傾向が強まることを考えれば、大手の加工品メーカーは売れる商品だからと言って大量に生産することはなくなり、適正な供給量を日々計算し、利益率を最大化していくように動くはずだ。小売業の要望に応じて値段を引き下げるという今のやり方も減っていく。

 もちろん、新商品のプロモーションなどは引き続き実施するだろうが、それをするなら、利益率が高く、ある程度客単価の高いスーパーに集中する方がいい。市場シェア獲得のため、積極的に小売業の値引き要請に応じることも減っていくに違いない。

 既に菓子業界などは、値引きでスーパーの棚を取る「プッシュ戦略」ではなく、棚替え作業のお手伝いや陳列のサポートという、ある意味ルールすれすれの作業をスーパーがメーカーにお願いすることで関係を保っている状態だ。

 この手の「お手伝い」は家電量販業界で問題になったが、小売業でも日々行われている。家電量販に公正取引委員会の検査が入った過去を思えば、いずれ問題視される日も来るだろう。菓子やカップラーメンなどの商品は、WEBやテレビCMなどによる「プル戦略」に力を入れていくことになるのではないか。

 こうした事情を考えてみると、ロピアが目指す「売り上げ1兆円」は極めて高いハードルであることが分かる。もちろん、イオンや広島のイズミなどのようにM&A戦略で規模を拡大していくことも考えられるが、バイヤー権限の一括化などに踏み切らないと、各子会社でグループ戦略に温度差が生じる可能性もある。

 店舗担当者がしっかりしている店ほど店舗担当者の意向が売り場づくりに反映されるため、バイヤーが統一した価格や商品規格で販売するという戦略が実は機能しない。店舗の判断の方が重視されるので、同じ茄子でも2本入り袋や3本入り袋など要望がばらばらで、発注が統一しづらい。こういう現場営業と商品部の「対立」「調整」をどのようにやっていくか、実は多くの小売業が悩んでいるところでもある。

 ロピアは今後、同ジャンルの生鮮ディスカウントを買収するなどのM&A戦略を実施するだろう。ある程度の規模の拡大ができたところで、中堅クラスのスーパーを傘下に置き、中堅からやや上位の商品を集めた小売り業態に進出する可能性もある。

 そうしなければ、商品調達能力の向上や産地との強い連携を構築することができない。生産者側から見れば、ディスカウント系店舗は全く商売として旨味がないので、連携や契約を忌避する傾向が強い。

 産地がまとまっていけばいくほど価格交渉力が増すため、DSではなく、イオンやイズミ、ライフコーポレーションあたりの既存スーパーとの商売を重視するようになる。最悪、DSにはそれなりの品質のものしか集まらず、品ぞろえも限られていくかもしれない。その時に、消費者がどこまでDSに満足するだろうか。

 ロピアが既に展開している飲食業への進出など、食品全体を見て他業種への進出を行うというのは一つの成長戦略だが、そこには多くのリスクが存在する。専門的な知識を持つスタッフも必要だろう。そのための投資をどこまでやり続けられるかがカギとなる。

 小売業にかかわる人間としては、「生鮮ディスカウントスーパー」というジャンルは、言われるほど将来性が高いものではないと思っている。世界中で「フェア・トレード」が叫ばれている中、国内流通の小売業と生産者側の関係がこれまでと同じバランスでいるとはとても思えないし、思いたくもない。日本でディスカウントスーパーがさらに広がる状態は、恐らく日本経済にとって暗い未来でしかない。