一部商品の価格を上げ始めたディスカウントストア
先ほど述べたように、一部の生鮮品は国内ではスーパー同士の奪い合いになっている。一方で、農家が「生産物の販路に困っている」というような話を聞くこともあるかもしれない。正確に言うと、あくまでも高く売るため、利益が出るための販路開拓に困っているということだ。ECサイトに注目が集まっているのはそのためだ。
ただ、ECサイトで野菜を買う人は所得の高い人であり、高級スーパーで買い物をする余力のある人である可能性が高い。
新潟大学の平泉光一准教授らの研究によれば、ネットで農産物を高い頻度で購入する群は、低い群と比べて、所得が高く、インターネットでの買い物の経験年数が長いということが分かっている(2019年度日本農業経済学会大会報告「農産物をネットで購入する消費者の動機解明」)。
流通の主軸である市場経由だと、比較的安価に商品を集めることができる可能性はある。卸売業者が集積機能を果たすことで、物量確保と価格調整を行ってくれるからだ。だが、市場経由の商品では他社との価格の差別化がしにくくなる。
そのため、スーパーマーケット業界に共通する動きだが、ある程度、規模が拡大していくと、独自のセンター機能をつくり、物流コストや市場流通の中間マージンを削減して価格を抑えていこうという動きが起きる。もちろん、DSでもこの動きは起きており、ラ・ムー(LAMU)を展開する大黒天物産は来年夏、京都府城陽市あたりに大規模なセンターを稼働させる予定だ。
こういった動きは当然、ロピアなど新興DSもしてくるだろう。もっとも、コスト削減にも限界があるので、差別化はできなくなる。むしろ、市場流通を使わなくなった分、自社のバイヤーの業務などが増えるため、調達コストは上がるかもしれない。水産品に限って言えば、各市の中央卸売市場の卸売業者のマージンは8~10%である。それを吸収するくらいのコスト削減が自社流通で可能なのだろうか。
自社センターでの物流集約によってコストを下げるというと聞こえはいいが、正直、机上の空論に思える。多店舗スーパーの数だけ生鮮流通センターが全国各地にできるとは思えないからだ。日本アクセスなどのように、日配品の流通に関してはいくつかのスーパーをまとめて受託するような仕組みがある。CGCグループのように、コーペラティブチェーンをつくり、物流コストを下げる方法もある。
実際、あるDSは、これ以上の値下げやエブリデイロープライス対応が難しいと、一部の生鮮商品では利幅を上げ始めている。低価格を打ち出して競合他社と戦うより、利益の取れそうな商品はそれなりの値をつけ、売り場維持のための利益を確保しようとし始めているのだ。