雷門前で異彩を放つ、隈研吾氏設計の浅草文化観光センター(東京都台東区、記事中イラストはすべて宮沢洋、『隈研吾建築図鑑』用に作成したもの)

日本の建築史上、最もお茶の間に浸透した建築家、隈研吾氏。その人気の背景には、ビジネスにも通じるヒントがある──。書籍『隈研吾建築図鑑』を執筆した元建築雑誌記者で現在は画文家の宮沢洋氏が、「隈研吾ブレイクの理由」を5回にわたって読み解く。今回は、隈氏の「コスパ感覚」について。(JBpress)

第1回●周回遅れの逆境が隈研吾を国民的建築家に押し上げた
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65115

第2回●丹下、黒川とは全く異なる隈研吾のコスパ感覚
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65116
第3回●じわりと依頼主の信頼を得る隈研吾の高度なコミュ力
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65172

第4回●低予算でも爪痕を残す隈研吾流ゆるふわブランド術
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65173

第5回●隈研吾人気、謎を解くカギは「繰り返しを恐れない」
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65174

 念のため説明しておくと、「コスパ」は「コストパフォーマンス」の略語だ。他の建築家であれば、コスパなどどいう言葉を使うこと自体がためらわれるが、おそらく隈氏の建築にコスパという言葉を使っても、「それは失礼だ」と言う建築関係者はいるまい。専門家であれば、誰もがうすうす思っていることである。

 それは隈氏が今日の国民的人気を勝ち得た大きな要因であると筆者は捉えている。

「見せ場」を雷門側に集中させる

 最も分かりやすいのが、2012年に完成した「浅草文化観光センター」だろう(記事冒頭イラスト)。雷門のはす向かいに立つこの建築は、雷門側から見ると家の形(切り妻型)がいくつも積み上がった形をしている。

 外壁は隈氏が得意とする木のルーバー(板材を隙間を空けて並べたもの)で、その非日常的な造形に、大人も子どもも、日本人も外国人も二度見三度見してしまう。

※ 本記事に含まれているイラストが配信先のサイトで表示されない場合は、こちらでご覧ください。https://jbpress.ismedia.jp/articles/gallery/65116?photo=2

 実は2010年ごろ、世界の建築界で、同じような“家型積み上げ建築”がメディアをにぎわした。何が理由なのかは分からないので、その分析は置いておく。隈氏の建築もそれらに負けないインパクトの強さだが、よく見ると、それらほど複雑な形ではない。宙に浮いた部分を最小限とし、庇の傾斜や平面のズレによって、巧みに「積んでいる」ように見せているのだ。

家型積み上げ建築の例