連載「実録・新型コロナウイルス集中治療の現場から」の第46回。今の日本は内向きになっていないだろうか? このままでは世界から取り残されてしまうのではないだろうか? 讃井將満医師(自治医科大学附属さいたま医療センター副センター長)がイギリスのレスター大学で活躍する鈴木亨教授に、世界にチャレンジする意義を訊く。
前回は、イギリスの新型コロナウイルス感染症の状況、イギリスの医療・検査体制について、レスター大学の鈴木亨教授に伺いました。今回は、「世界と伍して戦うこと」をテーマにお話ししていただきます。新型コロナ感染症の話題からは離れますが、これも日本がチャレンジすべき重要かつ深刻な問題点だと考えるからです。
トップランナーを世界中から探すイギリスの医療界
讃井 鈴木先生は、どのような経緯でイギリスに行かれたのですか?
鈴木 もともとは東大の循環器内科にいまして、おもに血管疾患、とくに大動脈疾患の臨床と研究を行なっていました。7年前にレスター大学から附属のグレンフィールド病院に教授で来ないかというお話をいただき、渡英しました。
リクルートにあたって、イギリスの大学はまず自分たちの大学のビジョン、ニーズを明確にします。そして、それに必要なスペックを持ったトップランナーを世界中から探すというやり方をとっています。ヨーロッパ以外から臨床系の教授を迎えるというのは非常に珍しいケースなのですが、私はたまたまニーズに合っていたのだと思います。その理由のひとつとして、イギリス(また欧米全般)では心臓血管疾患が非常に多く、死亡原因の疾患としては首位ですが(日本では癌疾患)、今まで大動脈疾患や血管疾患の診療体制は十分に整備されていませんでした。大動脈疾患の患者数が年々増えており、大動脈疾患を診られる医師が欲しかったというのがあるかもしれません。
讃井 レスター大学とはどのようなところなのでしょうか。
鈴木 ロンドンから160キロくらい北、イギリスのだいたい真ん中に位置するレスター市内にあるレスター大学附属グレンフィールド病院は、循環器疾患を中心にイギリスを代表する病院です。日本でいえば、国立循環器病研究センターといったところでしょうか。心臓血管疾患の患者数については、もっとも多く診ている英国の病院のひとつです。イギリスのメインのECMOセンターでもあり、新型コロナウイルス感染症においても、国内で最も多くの患者を治療している病院のひとつといえます。