(数多 久遠:小説家・軍事評論家、元幹部自衛官)
4月9日、統幕(統合幕僚監部)が2020年度の航空自衛隊スクランブル実績を公開しました。2020年度は725回で、一昨年(2019年)の947回から大きく減少し、4分の3ほどになっています。ここ7年ほどは900を超えることが多かったことを考えれば、かなり特異な変化です。
件数としては冷戦末期をも下回る件数となりましたが、冷戦時は北方でのスクランブルが多かったので、南西方面が多い現在とは状況が異なります。そして、それ以上に注目すべきなのは、このスクランブル減少の理由が、脅威が減少したからではなく、実は自衛隊の対応能力が限界に達したから、言い方を変えれば、航空自衛隊が音(ね)を上げたからだという点です。
スクランブルはもう限界
今回の資料が公表される1カ月ほど前、2020年度はスクランブルの総量を抑えていることが一部政府関係者からリークされ、時事通信が報じていました。スクランブルを行う対象を、日本領空に侵入される恐れがより高い機体に絞った、ということです。
スクランブル件数の四半期ごとの実績を見ると、大きく減少しているのは第2四半期、第3四半期です。第1四半期と第4四半期は同等ですが、対中国最前線となる南西航空方面隊に限れば、第1四半期のほうが第4四半期より少ないため、おそらく2020年度当初から総量規制が行われていたものと思われます。