自閉症の人々に見えている世界はこんなにも私たちと違うものなのか。それは斬新で、鮮烈で、私たちと同じものに触れていながら、まるで別世界。それなのに私たちに合わせて生きていかなければならない社会のために、彼らは非常な困難を強いられている。これまで、言葉を発せられない彼らの胸の内を想像したことがあったろうか。ドキュメンタリー映画『僕が跳びはねる理由』に触れ、自分の無知さに愕然とした。多様性の時代といわれるが、彼らの「個性」はこれまで家族にすら、認められずにいた。
どうしてこんなことをするの? なぜわからないの?
ところが彼ら自身も自分たちがなぜそうするのか、わからない。言われていることは理解しているのに、普通の人と同じようにできないことに悩んでいる。家族を悲しませている自分への怒りと落胆。それを伝えられないジレンマ。
誰にもわかってもらえない自閉症者の気持ちを理解してもらえたらと当時、13歳だった東田直樹さんが自閉症について書いたエッセイ『自閉症の僕が跳びはねる理由』(エスコアール/角川文庫/角川つばさ文庫)。
「どうして目を見て話さないのですか?」「手のひらをひらひらさせるのはなぜですか?」など、50以上の質問に彼らしい感性でわかりやすく答えている。
線ではなく「点の集合」による記憶
すべての始まりはこの本だった。ハリウッドで映画化もされた「クラウド・アトラス」の作者でイギリスのベストセラー作家、デヴィッド・ミッチェルは自閉症者である息子に対する「なぜ」がこの本との出会いで、一気に腑に落ち、感銘を受ける。妻のケイコ・ヨシダとともに翻訳し、イギリスで英訳版『The Reason I Jump』が出版されると、アマゾンのベストセラーにランキング入り。現在では30カ国以上で出版されている。
翻訳本との出会いで、やはり自閉症者である息子への理解が深まったのがこの映画のプロデューサー、ジェレミー・ディアとスティービー・リーである。劇中では二人の子ども、イギリス・ブロードステアーズに住むジョスをはじめ、世界各地、さまざまな環境で暮らす自閉症者たちに焦点をあて、彼らの世界を旅してゆく。