第一に、これまでのすべての、そしてこれからのすべての技術革新による新商品やサービス、様式が、それぞれの方法で人間の認識を変えることは必然だと認識したうえで、現代において望ましい行為(仕事)をするために(その時点で可能な限り)常に必要なフィードバックを受け取り続け、調整を行うループを構築する必要がある。
そのための新たなるデバイスやサービス、様式が求められ、結果としてこれまでの思考、認識、自己の範囲までもが新たに変革を遂げ、最終的には一つの「ステレオタイプな人間」というコンテンツを手放し、新しい時代における「新たな人間像」を捉え直す、そして捉え直し続けることが現代における「人間拡張」である。
「人間拡張はすぐそこまで来ている」
しかしやはり、いきなり「人間拡張」なんていわれると、なんだか体に電子チップを埋め込んだりする、ちょっと突飛で、妄執的な、それでいて少しグロテスクなイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれない。
事実、一部、特に米国ではその通りの研究が行われている。もちろん好んで体を改造したり、手のひらにチップを埋め込んだりする、いわゆる「トランスヒューマニズム」的な世界もあるが、ここではもう少し限定的に「機能的に」自身を改造することを指したい。
それは主に医療用途ではあるが、脳内に電極アレイを埋め込むことで、身体的な機能を補助するといった治療手法が存在する。
例えば、Blackrock microsystemsは、脳内に電極を移植することで全盲者に視覚を獲得させる治験を始めた。ParadromicsやKernelは、脳情報を読み取るための埋め込み型チップを開発している。また生体にダメージを与えない非侵襲的になる可能性が高いが、Facebookでも2019年に腕に流れる表面筋電を読み取るリストバンド・デバイスを製造する企業(CTRL-Labs)を買収、脳波で機器を操作できるようなシステムを目指している。
ただそんなことはとはお構いなく、SFファンの方々が想像するような、ある意味そのものずばりな研究を行っているのが、テスラのイーロン・マスク氏だ。
マスク氏は2016年にneuralinkを設立、埋め込み型の「ブレインマシンインターフェース」構想を発表した。その構想とは、「頭蓋骨に穴をあけ、脳内に複数の「プローブ」と呼ばれる糸状のデバイスを埋め込み、そこから収集されたデータを外部に出力する」といったものである。
しかも、2019年に初の研究成果として、ラットの脳にUSBを埋め込み、USB-Cポートを介してPCと接続できることを発表した。さらに驚くべきことに、ついに2020年8月末、豚の頭部に外科的な手法でデバイスを埋め込み、脳とコンピューターを接続したという実験の様子を公開した。


そして、何よりマスクが重要視しているのが埋め込み用の機械技術である。「ミシンの様に脳内に素早く糸を張り巡らすこと」が最も大事であり、将来的には「誰でも手軽に」その「恩恵」を受けることができ、「記憶を保存し再生する」ことを目指すとのマスク氏の発言もある。