テスラやスペースXのCEOを務めるマスク氏が立ち上げたneuralink。脳に電極を直接埋め込むBMI(Brain Machine Interface)技術を開発している(画像はneuralinkが2020年夏に公開したYouTube動画をキャプチャしたもの)

 漫画やアニメで「体を改造する」という設定は実に多用されており、王道ともいえるネタとなっているが、現実世界ではいまだになかなか「改造人間」には出会えないのも事実である。だが、2020年4月から世界中を巻き込んだ「コロナの嵐」は、それまで粛々と進められていた「人間改造計画」の文字通り追い風になったかもしれない。

 もちろん、「人間改造計画」などという名前の計画が本当にあるわけもなく、気づけば町中「改造人間だらけ」という世界になると言いたいわけではない。ここでは世界中で注目されている「人間拡張技術」が、想像以上のスピード感をもって世の中に実装されつつある現状について述べたい。

「人間拡張技術」といわれて、「ああ、あれね」と思っていただける方は恐らくそれだけで「そうね、実装のスピード感上がったね」と感じていただけるとは思うが、多くの方々はまだ「何を言っているのだ?」と疑問を持つだろう。

 事実、一言「人間拡張」といっても多くの分野・分類にまたがっている。根幹として「いろいろな技術を使って、人間にできることをより増やす」という概念こそ共通するが、実際のところはもっと複雑であり、人それぞれの認識と似通った概念に多数の言語が充てられている。ここではまず、「人間拡張」の定義について整理する。

 そもそも冒頭にもある「改造人間」とほぼ同義で使われる「サイボーグ」という言葉だが、これは1948年に米国の数学者、ノーバート・ウィーナーによって提唱された、世界発の誘導ミサイルの設計概念でもある「サイバネティックス」が由来だ。

 その語源は、ギリシャ語で「(船の)舵を取る者」を意味する「キベルネテス」で、概念の中では特に「フィードバック」という言葉が強調されている。一つの系において、リアルタイムのフィードバックをもとに調整し、その調整による結果を再度フィードバックし、さらに調整するループ、そのためすべての情報が扱い可能で継続可能ということが、つまりはサイバネティックスである。なんとも情報工学的な考え方であり、時代の先取りをしていた。

 一方、「人間の拡張」について考えると、少しだけ時代を下り、メディアの大家であるマーシャル・マクルーハンに当たる。

 カナダの英文学者、文明批評家であるマクルーハンは、1962年に『グーテンベルクの銀河系』を刊行し、その5年後に『人間拡張の原理』を刊行した。どちらも物質・情報の両面から人間は自分の思考・認識に影響を大いに与えるとしている。

 このように、物質に限らず、すべての情報・概念など、人が製作する人に対して働きかける発明品すべてが、一つのメディアであり、人間を意識的・無意識的に拡張・変質させるものだと考えられる。

 では、今の人間拡張とは何か。筆者の理解では、情報技術を使用した認識の更新であり、デバイスやサービスの変化である。