橳島ワールドが炸裂する動画インタビューはこちら。76分とめっちゃ長いですが、むっちゃ面白いです

 体外受精などの生殖補助医療、出生前診断、遺伝子検査、臓器移植、再生医療、ゲノム編集、人体実験・動物実験、安楽死、遺体解剖・・・。先端医療の技術発展とともに私たちの生老病死のあり方は大きく変化している。

 人の始まりは受精から何日目か、「マイゲノム」を知りたいか、人体実験は「学問の自由」か、老化防止は治療なのか──。こういった現代を生きる誰もが関係しているテーマは単純に黒か白かつけることが難しく、正しい答えがあるわけではない。何が問題なのか、何をどう考えて決めればいいのか。

「『倫理』という言葉は、押しつけがましく上から目線で好きではない」という著者が25のテーマについて「いのち」をめぐる問いかけと選択肢を示す。『先端医療と向き合う』(平凡社新書)を6月17日に上梓した橳島次郎(ぬでしまじろう)・生命倫理政策研究会共同代表に話を聞いた。(聞き手:長野光、シード・プランニング研究員)

たとえ命の始まりであってもいろいろやりたくなっちゃうのが人間

──体外受精などの生殖補助医療や着床前診断などの先端医療技術は、当初は人を助けるための切実な理由から使われましたが、次第に人間の欲望に応える目的に変わっているように見えます。この点はどうお考えでしょうか。

橳島:体外受精が開いた世界って、当初考えていたより影響がずっと大きくなったんです。最初は自然に子どもが持てない人たちのために、お腹の中で起こっている受精を手助けして体の外でやってあげましょう、と。あとはできた卵をお腹に戻して女性が産む、それだけのはずだったんです。

 でも、女性の体の奥深くで起こっていた人間の命の始まりを、体の外に出して見えるところ、手出しができるところに持ち出してしまった。目の前の体外受精胚は単なる細胞の塊に過ぎないのか、どの時点からが人間(命)なのか、という問題もあります。受精卵(胚)は不妊治療だけじゃなくて、発生学や再生医療の研究にも使われるようになる。新しい技術が新しい欲望を生み出す。すると、ただお金儲けしよう、長生きしようっていう欲望だけじゃなくて、例えば人間の命はどうやって始まるのか知りたいっていう、ただその研究のためだけに体外受精卵を使うというのも出てくる。

 また、体外受精卵の遺伝子や染色体を調べて、生まれてから病気や障害の伴わないものを選ぼうとする、着床前診断も普及するようになりました。さらに、遺伝子を操作して、病気の原因を取り除き、身体能力や知的能力を高めようという提案まで出てきました。

 よく話題になるゲノム編集は、それを可能にする技術として期待もされ、懸念もされています。それがたとえ命の始まりであっても、目の前に自由に手出しできる状態に置かれると、いろいろやりたくなっちゃうのが人間なんだなあ、と思います。そこで、何をどこまでやっていいかを考えなきゃいけなくなっちゃった、それが生命倫理ってことなんですね。