「その後は最初の1年間で8件と、細々、受注がありました。そして今思えばこの多くが、デザインをご覧になって『カッコいいじゃないですか!』と決まったものでした」

 このとき中村社長は、「カッコいい」など当然のことで、オフィスにはそれ以上の価値があることを説いていった。例えばオフィスでタバコが吸えた頃は、“喫煙所の連帯感”のようなものが注目を集めることがあった。部署も役職も異なる社員同士がタバコを吸いつつ情報交換することで、縦割りになりがちな組織に横の繋がりが生まれる、といったものだ。

「ならば、雑談するスペースがあったほうがいいですよね。そこで、オフィスの中央にバーのカウンターのようなものを設置し、そこでお弁当を食べる空間にする、といったことを考えました。逆に、作業に集中したくて話しかけてほしくない時間もあるはずです。なら、パーテーションで適度に区切り、周囲の目を気にせず集中できる場所をつくればいいんです」

 オフィスを変えれば生産性も、働き方も変わるのだ。

「また、社員にCI(コーポレートアイデンティティ)を伝えることもできます。例えば当社は、ロッカーに使用者の名前を表示するだけでなく、おしゃれな写真も貼ってあります。どんな表情の写真を選んで貼るかにより、その人の個性が表れます。すると、社員同士が話したことはなくても“面白そうな人”“豪快に笑う人”といったイメージを持って、そこからコミュニケーションが始まることもあるはずです。これだけで、社内の人間関係は活性化します」

 中村氏は「デザイナーズオフィスの営業は“普及活動”だった」と笑う。オフィスを変えれば、人と人が繋がれる、アイデアが出る、会社にいたくなる(!)、当社にはそんな仕掛けができます、といった事実を説いて回ったのだ。その後、クライアントとなる企業が何を大切にしているか、社員の皆はどう働きたいのか、そんなヒアリングを繰り返しつつプレゼンテーションをすると、クライアントの多くが惹きつけられ、受注率は驚異の「67.8%」を記録した。

「オフィスデザインは『設備投資』のようでいて、実際は『人への投資』なんです」

 ちなみにヴィス自体、「働きがいのある会社」ランキングの中規模部門(従業員100-999人)で、2017年から3年連続「ベストカンパニー」に選出されている。中村氏は社員から「居心地がいいから帰りたくなくなる」という言葉を聞いた時、少し戸惑い、かつとてもうれしかったという。

自社オフィスのエントランスに入ってすぐの位置から撮影。一人で集中したい人、気軽に雑談したい人、チームで仕事したい人、それぞれに合ったワークスタイルがとれる工夫が各所になされている