しかし、その工場の社長は中村氏を信頼し、デザインとリノベーションを任せたいと言う。意気に感じた中村氏は、玄関やワークスペースはもちろんトイレまでリノベーションを加え、工場とオフィスを下の写真のように変えた。

 その後も社長は中村氏を信頼し、ウェブサイトのデザインやパンフレットの製作など、「見せる」仕事をすべてヴィスに依頼した。すると、中村氏はある変化に気付いた。

「受付の女性の表情が以前とまったく違うんです。建物がボロボロだった頃は、人を迎える時に引け目を感じていたのか、いつも俯き加減でした。ところが、建物が変わってからは来訪者の目を見て、いい笑顔で応接してくれたんです。また工員の方たちは、商業デザインとしては当たり前の手法も斬新に感じたようです。例えば会議室の壁を磨りガラスに変え『これで扉を開けなくても中に人がいるかどうかわかりますよね』と話すと、みんな感心して、喜んでくれました」

 この時、中村氏は疑問を持った。

「人は見た目が9割」という。美容室で髪型を変え、服も新調したら気持ちが改まった、という経験は多くの人が持っているはずだ。なのになぜ、オフィス内部の見た目にはほとんどの企業が無頓着なのか?

 こうして2004年、ヴィスはデザイナーズオフィス事業を開始した。

ヴィスの中村勇人社長

オフィスデザインは『人への投資』

 とはいえ「デザイナーズオフィス」という言葉もなければ実物もない時代だ。そうそうお客さんが現れるわけもない。