ガイトナー米財務長官が2月10日発表した新たな金融安定化策には、市場が待ち望んでいた「バッドバンク」構想(銀行のバランスシートから不良債権を分離)が盛り込まれた。しかしながら、実際には「バッドバンク」の語感とはやや異なり、民間出資に政府・連邦準備制度理事会(FRB)の保証と融資を付け、官民共同ファンド(PPIF)を立ち上げるというスキームが飛び出してきた。

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ガイトナー長官、新金融安定化策を発表〔AFPBB News

 ブッシュ前政権下で頓挫した「金融機関の問題資産買い取り」について、「オバマ政権は政府出資により大型の買い取り機関を設置するのでは」との期待が高まっていただけに、市場には失望感が広がった。その後、ニューヨーク市場ダウ平均株価が昨年11月20日の安値(7552ドル)を割り込み、ガイトナー構想の意図や実効性を理解し切れないマーケットは苛立ちを示した。

 「数週間にわたり検討してきたプランは結局、コストや複雑さ、過大なリスクといった点で納税者の理解を得られないと判断し、ガイトナー財務長官は方向転換せざるを得なかった」。2月17日付米紙ワシントン・ポストはこう報じている。検討されてきたプランには、政府出資の買い取り機関のほか、シティグループやバンク・オブ・アメリカ(BOA)に適用した一定範囲を超える損失に政府保証を付与するスキームも含まれていた模様だ。

 同紙は関係者の証言に基づき、「いずれのアプローチを取ったとしても、数兆ドルの税金をリスクにさらすという問題点が2月初旬時点で明らかになった」ため、ガイトナー長官は代案選択を迫られたと解説している。

インディマック売却が予兆に

 だが、民間資本を活用する代案は、理解できなくもない。伏線は、連邦預金保険公社(FDIC)が1月初旬公表した「インディマックの投資家グループへの売却」にある。

 昨年7月破綻後、FDIC管理下に置かれたインディマックは、投資ファンドなどが出資する受け皿会社に139億ドルで売却されると報じられた。売却対象は、パサデナ(カリフォルニア州)に本店を置く同行の33支店、65億ドルの預金、229億ドルのローン・証券ポートフォリオなど。買い手はFDIC主導の住宅ローン返済条件変更を受け入れた。その一方で、一定条件を満たすローン・ポートフォリオに将来発生する損失に関しては、最初の20%については8割、次の10%は9.5割をFDICが保証する。

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 買い手となる投資家グループには、JCフラワーズやポールソン、デル・ファミリーの資産管理会社、ジョージ・ソロス氏が率いる運用会社が含まれ、かなり投資家寄りの条件で決まったと伝えられる。破綻金融機関の処理は、プライベートエクイティファンドをはじめ、一部の投資家層にとって依然妙味のあるビジネスなのだ。

 今にして思えば、「銀行国有化」を是としない米国の風土と、資本市場にリスクマネーを供給する厚い投資家層の存在を考えると、今回ガイトナー長官が選択した代案は、当初から有力な選択肢として検討されていたのかもしれない。

ソロス氏、「バッドバンク」批判に転向

 インディマック買収に動いたジョージ・ソロス氏は、1月23日付英紙フィナンシャル・タイムズに寄稿。オバマ政権が検討中の不良資産切り離しと銀行救済に関して「2つの選択肢」を提示し、その優劣を問いかけた。「金融機関の国有化」と、「民間の形を維持したうえで不良資産だけ国有化(バッドバンク)」のどちらが良いのか。あえて是非を明確にせず、政治的ハードルを考えると「現実的にオバマ政権が取れるのは後者の選択肢」と指摘している。