ソロス氏、アフリカの貧困対策プロジェクトに59億円寄付 - 米国

「バッドバンク」批判に転向したソロス氏〔AFPBB News〕

残り0文字

 ところが、驚くべきことに2月4日付米紙ウォールストリート・ジャーナルでソロス氏は、「バッドバンク」批判論を展開したのだ。「米国銀行の時価総額が1兆ドルまで減価した今、1兆ドルを超える追加資本注入は全行の国有化を意味するため、新政権はやむを得ず『バッドバンク』を思いついた」と、ソロス氏は経済チームを皮肉っている。この時点で恐らく、ワシントンの微妙な空気の変化を感じ取り、ガイトナー長官の方向転換の予兆を察したのだろう。

 さらにソロス氏は、迷路に入りこんだ従来型「バッドバンク」構想から思考を一歩先に進め、金融機関国有化でもバッドバンクでもない「第3の方策」=「サイドポケット」方式を提唱した。

 「バッドバンクの設立は間違いと言えよう。特に、現在のように既存のほかの方法で適切に資本注入できる場合には。ヘッジファンドが流動性の低い資産をファンド本体から分離するように、銀行の不良資産を『サイドポケット』に入れるのだ」

 「その結果、バランスシートは浄化され、存続可能な銀行(グッドバンク)になれるが、過少資本の問題は残る。そこで、バッドバンク設立用の1兆ドルをグッドバンクへの資本注入に充てる」。ソロス氏の「サイドポケット」を官民共同ファンドに読み替えれば、ガイトナー長官がたどり着いた代案と見事に符合する。

ストレステスト、結果次第で銀行国有化

 ガイトナー長官とソロス氏に共通するのは、米国資本市場の懐の深さに対する造詣と、市場メカニズムに対する揺るぎない信頼である。

 今回の新金融安定化策は(1)銀行に対するストレステスト(資産査定)の実施と追加資本注入、(2)官民共同ファンドの設置(不良資産切り離し)、(3)FRBによるTALF(ターム物資産担保証券ローンファシリティー、ABSなどの保有者に対する信用供与)拡大、(4)差し押さえ対策(住宅ローン返済条件緩和)――が打ち出された。

 問題解決には(2)と(4)が不可欠だと、本コラムは主張してきた。銀行の信用創造機能回復の効果が表れるには時間がかかり、その間の「貸し渋り対策」として(3)の当局による信用供与拡大が必要となる。エンジンとなる(2)と(4)をスムーズに始動させるためには、(1)がイグニッションの役割を果たす。

 ローン条件を借り手有利に変更しようという「差し押さえ対策」は、貸し手である金融機関と利害が対立し、遅々として進まなかった。しかし、破綻したインディマックの場合、政府管理下で住宅ローン返済条件の変更が実現した。さらに不良資産の強制償却を前提に、前述の通り新たな投資家が収益機会を求めて参加してきた。

 新金融安定化策には、これと同様の措置をすべての大手・中堅銀行に講じようという意図が透けて見える。あくまで、「民間銀行」として存続中の銀行に対し、強制償却と住宅ローンの条件変更をスムーズに進めるには、「銀行を追い込む」方策が必要になる。そのための武器が「ストレステスト」による資産査定だ。その結果、資本不足に陥った銀行には「普通株に転換可能な優先証券」で資本注入という国有化オプションを突きつける。

アメとムチ、見えてきた金融再生策

米上院、財務長官にガイトナー氏を承認

大きな賭け、ガイトナー長官〔AFPBB News

 巨額の不良債権を抱えて実質的には債務超過に近い銀行を、民間銀行のまま存続させるという「アメ」。それと、「ムチ」になる国有化オプションを併用しながら、強制償却と住宅ローン返済条件の変更を迅速に進める方策だ。日本の金融再生プランで見られた光景が蘇ってくる。さらに米国の場合は、新たな投資家の出資を呼び込み、市場メカニズムを活用して金融の自律的再生を目指している。
今後の注目点は「ストレステスト」の実効性と、銀行の不良資産を吸収するだけのリスクキャピタルを投資ファンドが供給するかどうか。見通しは依然不透明、そう言わざるを得ない。

 しかしながら、FDIC保証とFRB融資の条件次第では、インディマック処理のように投資家を呼び込めるかもしれない。官民共同ファンドの成功事例が数件確認できれば、さらに多くの内外投資家が参加し、「不良資産切り離し」プロセスが稼働を始める。

 そして、不良資産分離後の銀行は「グッドバンク」に生まれ変わり、もしその株価が低位のままならば、投資家が見逃すはずない。金融セクターが主導する形で、市場や実体経済の好循環が始まる・・・。こうした姿がおぼろげながら見えてくる。ガイトナー長官は大きな賭けに出た。イグニッションが点火され、本当にエンジンが回り始めるのか、注目していきたい。