網膜だけが認識する文様を映し出す

窪田:近視の原因の多くは軸性近視と呼ばれるもので、眼軸長(角膜の頂点から網膜までの長さのこと、眼球の奥行き)が伸び、目の焦点が網膜の手前に移ることで遠くものが見えにくくなるというメカニズムです。本来、眼球は球形ですが、眼軸長が伸びることで、ナスのような形になってしまうんですね。

 ただ、眼軸長が伸びることで近視になるのであれば、眼軸長の伸びを抑制したり、伸びてしまった眼軸長を短縮させたりすることができれば、近視の抑制や治療につながるはず。そこで、眼軸の伸びを抑制するような刺激を網膜に与えるデバイスをつくろうと考えたわけです。

 実際に映し出している画像は、網膜だけが認識する模様のようなものです。正確に言うと、脳も最初は認識しますが、単調なパターンなので脳が飽きてしまって認識しなくなる。ただ、網膜には見えているので、網膜には常に刺激が与えられている状態になるという仕組みです。脳が認識していないので、日常作業には支障はありません。
 
──実際に治療効果はあるのでしょうか。

窪田:設置型のデバイスを用いた短期試験では、1日1時間、網膜に刺激を与えることで眼軸が短くなることを証明しました。眼軸長は年齢とともに伸びる、あるいは成長が止まるもので、人工的な光で眼軸長が短くなるというのは世界でも報告例がありません。

 ただ、少なくとも数時間は短い状態を保つことが分かりましたが、その状態がどのくらい持つのか、1日にどのくらいかければいいのか、といったことはまだ分かっていません。メガネ型でも同様の効果が得られるのかも含め、今後の臨床試験で明らかにしていきます。

最初に臨床実験を実施した設置型デバイス
その次に開発したヘッドマウントディスプレー型