アリババ・グループの創業者・馬雲(ジャック・マー)氏(写真:AP/アフロ)

 アリババ(阿里巴巴)のサイト上に、多種多様な煌びやかなクリスマスグッズが並んだクリスマスイブの日の午前9時12分、ほとんど訪れる人もいない国家市場監督管理総局という厳めしい中央官庁のサイトに、わずか43文字の通達が公示された。

<最近、国家市場監督管理総局は、通報に基づいて、法により、アリババグループ・ホールディングス株式会社に対して、「二者択一」などの嫌疑で、独占行為の調査立案を実施している>

 公示から24時間経ってもたったの624人しか閲覧していない、このささやかな通達が、暮れの中国を揺るがせている。私は以前から、「アリババ国有化」の可能性を指摘してきたが、習近平共産党政権と、11月の世界時価総額ランキングで7位につける中国最大の企業アリババが、いよいよ正面衝突の様相を呈してきたのだ。

デジタル人民元普及の障害になっているアリペイとウィーチャットペイ

 北京西城区の金融街に勤める中国の金融関係者が解説する。

「習近平政権とその命を受けた『央行』(ヤンハン=中国の中央銀行にあたる中国人民銀行)としては、2022年2月の北京冬季オリンピックの開幕までに、デジタル人民元を整備し、世界のVIPに、アメリカを凌駕するデジタル通貨の威力を見せつけたい。そのため今年10月には、経済特区40周年の深圳で、5万人の市民に200元(約3000円)を入金した実地実験も行った。

 だが、デジタル人民元を普及させるにあたって、一番のネックになっているのは、アリペイ(支付宝)とウィーチャットペイ(テンセントが運営する微信支付)なのだ。この二つのアプリで現在、計10億人以上の中国人がスマホ決済を行っていて、デジタル人民元を普及させる障害になっているのだ」

 この発言は意味深い。国家とは何かと問われれば、その必要条件は、通貨を独占的に管理している主体だからだ。

 昨年、アメリカでフェイスブックがデジタル通貨「LIBRA」の発行をもくろみ、ホワイトハウスと連邦議会を慌てさせたあげく、阻止されたことは記憶に新しい。同様に、中国ではアリババとテンセントが現在、事実上のデジタル通貨に近いアリペイとウィーチャットペイを普及させており、金融当局としては、看過できないところまで来たのだ。特に、「反抗的で動のアリババ」と「従順で静のテンセント」という社風は、それぞれの創業者である馬雲(ジャック・マー)氏と馬化騰(ポニー・マー)氏の性格を反映しており、金融当局として、まず叩くべきはアリババなのである。