若狭の伝統工芸職人数人が集まり、「伝統工芸を伝える店の看板とパンフレットを作る」というプロジェクトも、74万5000円を集め、2019年11月に成立した(記事冒頭写真)。「2年ぐらい前からクラウドファンディングの利用は検討していたのですが、福井県の担当者さんにお声がけいただいたことがきっかけで、福井県のクラウドファンディングでやることにしました」(メンバーの飛永なをさん)。

 看板はすでに作成されて、現在、活動拠点としている熊川宿(福井県若狭町にある宿場町)の古民家店舗(飛永さんの陶芸工房)に掲げられている。「看板はみなさんから好評ですよ」(同氏)。

30年ほど寝かせた屋久杉を使用(伐採規制以前に入手したもの)。木彫部分は若狭の空と海をモチーフにデザインした

「活動を認められた」実感が伴う

 ふるさと納税を利用するため、福井県内の居住者には商品などをお礼として送ることができない。多くの場合はお礼の手紙、寄付者の名前掲示、イベントへの参加などに限られる。それでも「寄付しよう」という人がいる理由の一つは、プロジェクト実行者が知り合いや親戚などにお願いをすることが多く「ものをもらう」ことを前提としていないこと、さらに「地元の活動を応援したい」という気持ちがあるからだと考えられる。ただ、「実質的には金銭の負担がほぼない」という点も大きいだろう。

 この仕組みについて「始めた当初、寄付者は県内の人が多かったけど、2019年には県外の人が増えて半々ぐらいになっています」と、ふるさと納税を担当する福井県定住交流課の小森雄平企画主査は言う。

福井県定住交流課の小森雄平企画主査

 プロジェクト実行者にとっては、県からの補助金を受けるという、従来の仕組みと大差ないように思えるが、実は大きな違いがある。「苦労はしたけれどやってよかった、達成感があった」という人が多いという。自分らの活動を広く知ってもらった、認められた、という実感を持つこともできているようだ。

「自分たちで苦労して集めたお金であるし、寄付者の思いを背負っていることなどを感じていただいていると思います。そういう点で、県が補助金を支給するということとは、少し違うものであると考えています」(小森主査)。

ふるさと納税に対する福井県の思い入れが

 福井県がこの取り組みを始めたそもそものきっかけは、総務省が2017年10月に出した「ふるさと納税を活用した地域における起業支援及び地域への移住・定住の推進について」という通知である。この中で「クラウドファンディング型のふるさと納税を活用して、「ふるさと起業家支援プロジェクト」(中略)を立ち上げる」としている。これを受けて、福井県は直後の2018年度から開始したのだ。

 通知が出ても、各自治体がすぐに動いたわけではなかった。「福井県はそもそもふるさと納税の概念を提唱したという自負もあります。新しい取り組みをすぐにやることになった要因の一つは、ふるさと納税に対する県の思い入れの強さなのではないでしょうか」と小森主査は説明する。

 ただ、仕組みを作ったからと言って、すぐにたくさんの応募があるわけではない。「当初は手をあげていただく方があまりありませんでした。プロジェクトの応募者は、県がこれまで縁のなかった個人レベルのものも多いので、お声がけをするのにも苦労しました」(小森主査)。

 当初のプロジェクト実行者探しに貢献したのが、地元企業である福井銀行と福井新聞社だった。新規事業への融資の相談を受けたり、地域活動の取材を行ったりという、地域の情報を持っている2社との連携が「すごくありがたかったです」(同氏)。