そしてもう1つ、ベトナムが危惧していることがある。人権問題である。ベトナムは共産党独裁体制を採用しており、反政府活動は禁止されている。ネットの検閲なども行われており、人権問題に敏感な民主党政権がそれを持ち出すと、関係は一気に冷却化しかねない。このあたりも、バイデン政権の出方を見守る必要がある。

中国が恐れていること

 ただ、米国が本気で中国の台頭を叩く気があるのであれば、ベトナムとの関係を強化することは最も効果的な手段になる。ベトナムは1億人の人口を抱えており、その人口は中国の工場と言われる広東省に匹敵する。またベトナム人は中国人と同様に勤勉である。そして、現在、労働者の平均賃金は中国の3分の1程度に留まっている。

 中国が恐れているのは、米国が本気で中国からベトナムに工場を移すことだ。ベトナムを世界の工場にする。国力が増大すればベトナムの軍備も増強される。

 国境を接しているだけに、本心では中国もベトナムを怖がっている。実際に1979年の侵攻では中国は大軍を投入しながら、個々の戦闘ではベトナム軍に敗北している。遠い昔のことであるが、ベトナム軍が中国に侵攻したこともある。その時の将軍である李常傑は今でもベトナムのヒーローである。中国が南シナ海を我がものにする上で、ベトナムはもっとも邪魔な存在になっている。

 繰り返しになるが、中国は、米国が中国に持っている工場をベトナムに移すことを恐れている。そうなれば権益を守るために否が応でも米国はベトナムとの軍事的な協力関係を強めることになる。その結果として、南シナ海で中国軍が勝手に振る舞うことは難しくなる。

トランプ政権とは異なる国際協調路線

 現在、中国、ベトナム、米国の3国は以上のような関係にある。そんな中で、バイデン政権がベトナムに対してどのようなアプローチをとるのか、現段階では分からない部分が多い。

 ただ、バイデン政権はトランプ政権とは異なり、同盟国などと協力して中国に対抗しようとすることだけは確かなようだ。ベトナムに対する政策は、バイデン政権の中国との対決姿勢の本気度を探る上でキーになる。

 バイデン政権がベトナムとどのような関係を構築するのか、ベトナムだけでなく日本もその行方を注視する必要がある。