10月初旬、アイドルなどの女性芸能人の顔と、アダルトビデオ(AV)の身体運動の動画情報を合成して、フェイクのポルノ動画を作り、インターネット上に不特定多数公開していた大学生の男など2人が警視庁に逮捕されたことが報道されました。
もし、あなたの顔、あるいはあなたの家族、奥さんやお嬢さんなど身近な人の顔の情報が、全く無関係のポルノ動画に「貼り付け」られて、あたかも本人であるかのような振る舞いをしている音声動画情報がインターネット上にリリースされたら、どうでしょう?
明らかに嘘と分かるような代物であればまだしも、ちょっと見ただけでは真贋の判断がつかないようなところまで、いまや技術の水準は向上しており、あまり洒落になりません。
こうした「フェイク」の技術向上の<デュアルユース>面、すなわち、人道的な側面と、犯罪的な面が、とりわけ法廷、裁判の場にどのように影響を及ぼすかを考えてみたいと思います。
復元とフェイクの狭間
つんく♂という芸能人が活動しているのは、多くの方がご存じかと思います。
本名を寺田光男さんとおっしゃるようで、1968年生まれ、52歳のタレントさんであり、プロデュースなどもしておられる。
彼は2014年、45~46歳にかけて、喉頭がんを患ったことを公表、加療、手術のうえ、声帯を摘出、声を失ったことが報じられました。
この当時の連載にも記した記憶があるのですが、例えばこういうおり、十分なサンプルがあって、システムに学習させれば、声帯を失った人の「声」と同様の音声ドキュメントを、コンピューターで合成することが可能になります。
ある人の声というのは、その個人に関係ない人にとっては、どうでもよいものかもしれませんが、個人的な関わりや自分自身であれば、決定的です。
例えば、手術で喉を切除し、声を失った人にとって、術後の回復期以降、筆談や、現在では様々な音声合成システムが、自分の意思を人に伝えるわけですが、そのとき、ロボットボイスで伝えるのと、自分自身の声が復活するのとでは、相当な違いがあるはずです。