(北村 淳:軍事社会学者)
タイ政府は中国からの潜水艦輸入調達を、少なくとも1年間は棚上げにする決定を下した模様である。安倍首相が門戸を開いた「日本から国際社会に向けての戦略的兵器輸出」にとって、好機到来である。国際社会への戦略的兵器輸出によって、裾野の広い防衛関連産業が活性化し、ひいては日本経済再生の原動力の一つとなることが期待される。
兵器輸出の素人に立ちはだかった厚い壁
かつて安倍首相はオーストラリアのアボット首相との信頼関係に基づいて、次世代潜水艦選定作業に取りかかっていたオーストラリア海軍に、「そうりゅう」型をベースとする潜水艦の売り込みを図ろうとした。
しかし、すでに日本が参加する数年前から売り込み活動を開始していたフランスとドイツの壁は厚い上、本格的兵器輸出の経験とノウハウを全く持たない防衛省をはじめとする日本政府や日本防衛産業界は、潜水艦輸出という超大型取引の土俵に上がることすらできなかったというのが実情であった(参照:本コラム2016年4月14日「決定間近、オーストラリアは日本の潜水艦を選ぶのか」、2016年5月5日「素人には歯が立たなかった国際武器取引マーケット」)。
今回のタイ海軍調達計画の一時的頓挫は、日本にとって潜水艦輸出再挑戦の機会となり得る事件と言えるかもしれない。