橋本氏は構想から起業まで約2年間かけたという。幾分長いが、彼女に「ビジネスモデルをマネされる危険性は感じなかったか」を問うと、こんな答えが返ってきた。

「特段感じませんでした。それくらい誰も手をつけない分野だったんです。それより、今まで受付しかしてこなかった私がどうすればIT分野の仕事ができるのか、ということのほうが私にとって難しい課題でした」

 橋本氏は受付の仕事をしながら、資金繰りやアイデアのブラッシュアップなど、様々なアクションを起こしていく。この時期を振り返り、「このアクションが成功への最短距離だった」と感じるのは「人の話を聞くこと」だった。

「受付だったので、幸い、起業家の方と知り合うきっかけもありました。また、ベンチャー企業でも働いていたので、相談に乗ってもらえる方に恵まれていたのです。いざという時に頼れる方を増やしておく“ネットワーキング”は、起業を考える前から地道に頑張っていたと思います」

 ネットワーキングだけではない。橋本氏はGMOなど様々な企業で受付のリーダー格として信頼を集め、時には後輩を叱咤激励し、受付がこのままでいいのか、といったことも考えていた人物だ。同じ仕事をして同じ景色を見ていても、同じ着想を得られるわけではない。彼女には元々「もっと効率的に」「もっと人を喜ばせたい」「もっと・・・」と突き詰めていく思考法が備わっていたのだろう。

「自宅で一人で起業したので、資金集めと仲間集めは何よりも優先して行いました。私は、ほかの起業家に比べ知識もスキルも資金力も足りないことを自覚していました。そこで、多くの方に『足りない部分を一緒に埋めてください』と頼み込んだんです」

 橋本氏は先輩起業家から「プロダクトマネージャーを雇用した方がいい」と助言を受け、過去、同じ会社でプロダクトマネージャーをしていた人物に連絡を取った。実現したいことをファミレスで熱く語り、在職したままでいいので一部手伝ってほしいと頼み込むとOKがもらえた。決め手は「お互いが自分にないものを持っている」と認識できたから。橋本氏に招かれた人物にとっても、この話は魅力的で、かつ実現可能性が高いと思えたのだろう。