イージス・アショア(陸上配備型イージス・システム)は、平成29(2017)年12月に閣議決定により2基の導入が決定された。
しかし今年(2020年)年6月15日、河野太郎防衛大臣の決定により配備プロセスが中止され、同月24日の国家安全保障会議の四大臣会合で、撤回方針が決定された。
核ミサイル数千発の脅威
日本の安全保障にとり最大の脅威は、中朝露の数千発に及ぶ、日本にも到達可能な核搭載可能な各種ミサイルである。
その数は中国だけでも、大気圏外から超音速で落下してくる弾道ミサイル、超低空を這うように飛んで来る巡航ミサイルなどを併せて、約1300発から2700発に上るとみられている。
その約6割は短距離で台湾と南西諸島に向けられている。
北朝鮮も、日本向けとみられるノドン・ミサイル約600発など計1000発程度の各種弾道ミサイルを保有し、核弾頭数も数十発から百発近くに達していると見積もられている。
ロシアが保有する約6800発の核弾頭の約4分の1程度は極東に配備され、中国との関係が改善している今日では、その照準は日米韓台、グアムなどに向けられているとみられる。
核ミサイルに対する戦略と我が国の現状
このような深刻な核脅威に対する抑止および対処戦略として、攻勢戦略と防勢戦略がある。
攻勢戦略は核の先制または残存報復攻撃によるものであり、防勢戦略にはミサイル防衛(MD)システムによる積極防衛と、核シェルターや大規模疎開などの民間防衛による消極防衛がある。
イージス・アショアはMDシステム、すなわち積極防衛戦略のためのシステムの一つである。
その計画撤回の是非については、本来の戦略システムの任務である、各種の核ミサイルの脅威をいかに抑止し対処するかという観点から、その費用対効果を検討し、他のシステムと比較して優位にあるかどうかが問われなければならない。
我が国が保有している戦略システムは極めて限定され、かつ偏っている。戦略攻勢のための核打撃力も核抑止力も全面的に米国に依存してきた。
日本の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)などの各種核ミサイルの潜在的な開発・保有能力は、技術、財源、関連インフラなど非核国の間では最高レベルにあるが、生かされていない。
また消極的戦略防衛の中核となる核シェルターの人口当たりの普及率は0.02%に過ぎない。