このように、通常戦力による戦い方の開発、配備のみでは、確実な抑止力にも対処力にもならない。

 相手もまた同様の戦い方の改善を絶えず進めるために、我が方の一方的な勝利を敵に確実に予期させるのは困難である。

 すなわち、抑止力にも対処力にも限界がある。しかも、先端的な通常戦力の整備には、多くの時間と人と予算が必要になる。

最小のコストで確実な抑止力
我が国独自の核保有

 最小のコストで確実な抑止力を得る道として、日本自らの核保有という選択肢がある。

 核抑止力は、核兵器の破壊力による恐怖が根底にあって成り立っている。核兵器にとって代わる、コントロール可能な巨大な破壊力を持った兵器システムは、見通し得る将来も登場しないであろう。

 致死率の高い遺伝子操作された人工ウイルスなどの生物兵器も使用される可能性はあるが、化学兵器と同様に極めてコントロールが困難であるという問題点がある。

 また核兵器は地下目標や広域目標、地下の生物化学兵器庫の破壊など、通常兵器その他では代替できない能力もある。

 今後はミサイルの精密攻撃からの残存性を向上するために、司令部、指揮通信施設、コンピューター中枢、核施設などは地下の深部に展開されることになるとみられる。

 これらの地下深部の目標を破壊するには核弾頭が不可欠である。

 通常弾頭でも特殊な地下侵徹爆弾はあるが、それでも地下90メートル程度が限度である。また、地表の目標はますます広域を迅速に移動するようになるであろう。今後増加する広域移動目標や地下目標の破壊には核弾頭の必要性がますます高まる。

 以上のように分析してみると、イージス・アショア計画の撤回は、単なるMDシステムの問題ではなく、高まる核脅威に対して我が国の戦略態勢全般をどのように構築するかという問題に帰着することが分かる。

 まさに、将来戦様相を前提として、戦略態勢全般を見直すべき時期に来ていると言わねばならない。