スピード優先か、正確さの追求か

 持続化給付金の事業は、コロナの影響で売り上げが減少した中小企業や個人事業主に最大200万円を配るというものです。そして、この案件では、2つの大きなトレードオフがありました。1つは「スピードと正確さ」のトレードオフです。つまり、申請者に対し迅速に給付金を配布するか、絶対に間違いがないようにじっくり正確に配るか、どちらを取るかという問題です。

 持続化給付金は、第1次補正予算だけで2兆3000億円、さらに第2次補正でも1兆9000億円が予算に計上されています。7月13日までに、約250万件の中小企業・個人事業者に3.3兆円が給付されています。こんなに巨額の予算を、ごく短期間に全国の事業者に配布するというのは、なかなかないことです。

 しかもこの資金の給付は、コロナで苦しんでいる事業者にとって一刻も早く手にしたいお金でした。そのため、何よりも迅速さが求められていました。もちろん行政の仕事ですから、正確性も求められているのですが、正確さを極限まで追求するよりはスピードを重視しなければならない側面があったのです。これがひとつ目のトレードオフです。

 この事業の入札は、報道によれば、サービスデザイン推進協議会とデロイトトーマツファイナンシャリーアドバイザリー合同会社の2社で争われました。デロイトは世界的な監査法人のグループ会社ですから、正確性や不正のなさを優先するならこちらのほうが長けていると思われます。それに対してサービスデザイン推進協議会は電通とかかわりの深い団体で、いわば電通とは一心同体的な団体。日本中にプロモーションのための関連会社を擁し、手足となる実働部隊が揃っている電通なら、何かを一気に配ったりするのは得意そうです。

 おそらく、そうした比較の中で、当時は「早く、早く」の大合唱ですから、役人だった経験に基づいても、癒着の有無とは別に、スピード重視でサービスデザイン推進協議会が選ばれるのは、政策判断としてさほど不自然なことではないと思います。