野沢は初め、立ち位置について「何も考えてない」としか言いませんでした。本山さんは、逆サイドにボールがあるときや味方選手の動きによってどう立ち方を変えているのかを聞けば、すぐに答えが出てきました。柴崎の場合は、チームメイトや相手選手の動きに対しての自分の立ち位置を整理しているだけでなく、キャリアの段階と目指す自分の選手像を考えた上で、立ち位置の微調整を行ってきたことも話してくれました。

 感覚が三者三様なだけに、言語化も三者三様ですよね。

 しかし、共通するのは3人とも(ボール扱いの非凡さは言うでもなく)、「現象」として明らかに立ち位置が良い選手だったことなのです。

 では、なぜ共通して立ち位置が良かったのか、と彼らの言葉の中から考えてみると、3人ともに“相手の嫌がることができていた”からだと思います。

必ず「再現される」立ち位置

 例えば、野沢に「何も考えてない」をシチュエーションで掘り下げて聞いてみると、相手が動いたところ、つまりスペースを常に探して動き続けていたことが窺えました。

 特に、彼は逆サイドのセンターバックの背後まで長い距離を走って斜めに侵入していく動きを多くしていましたが、──彼にとってみたら“なんとなく空いていた”のでしょうが──、非常に効果的で、相手からすると掴みづらい動きになります。

 本山さんの立ち位置も、型にこそはまりませんが、常に2秒後、3秒後の絵をイメージして立ち位置を取っていたことが分かりました。だから、無駄にボールに寄って行ったりはしません。数秒後にボールが来た時にいかに効果的で決定的な仕事ができるのか。それを経験から起こりうるいくつかのパターンにはめ込みながら待っていたのです。

 柴崎の“意図的に変えていった立ち位置”も実に効果的だったと思います。彼がより決定的な仕事を増やすために増やしたのが、味方がサイド攻撃をしている時のペナルティエリアへの侵入です。

 当時はその場所を「PKマークのあたり」に設定していたようですが、ここもサッカーにおいて人がプレーする限り必ず空いてしまうような“原則的なスペース”です。そこに入り込むタイミングも含めて、最終的には“感覚的”にゴールへの嗅覚をつかんだ彼は2012-14年ごろ、飛躍的にゴールに絡む回数を増やしました。