衛星の「肺」=電力を蓄えて吐き出す電源系
次に訪れたのは、福岡市西区にある昭和電気研究所。同社が担うのは衛星の電源系だ。主幹技師の古賀圭さんは「電気を得て、蓄えて、配分する部分」と、衛星における同社の役割を説明する。具体的には太陽電池パネル(SAP)、SAPで得た電力を蓄えるバッテリー、その電源を制御するユニット(PCU)、姿勢を制御するユニット(ACU)。さらに衛星全体のセンサー類などをつなぐ配線を担当している。
太陽電池パネル以外の機器類は、バス部と呼ばれる衛星本体の中にある。大きく開くアンテナのような派手さはないけれど、電力がなければ衛星は機能できない。その意味では心臓部とも言えるし、「電気を蓄えて吐き出す『肺』のようなものではないか」と営業部の久原彰太さんは例える。
特に今回の小型SAR衛星は、衛星から強い電波(マイクロ波)を発射し、地上から跳ね返ってきた電波を受信することで昼夜天候問わず24時間観測する。宇宙空間から地上まで強力な電波を出すためには、大きな電力が必要だ。
昭和電気研究所は、2004年に九州小型衛星の会に参加。九州大学学生の人工衛星開発支援をスタートし、JAXAなどからの発注を受けて国際宇宙ステーション(ISS)での実験装置を作り(2011年打ち上げ)、2014年に打ち上げられた九州大学を中心とした50kg級小型衛星プロジェクトQSAT-EOSでも電源系を担うなど、宇宙ミッションの経験と実績ある企業。
さらに、振動環境については、ロケット打ち上げ時の数分間の環境よりも格段に厳しい、レース用二輪車などモータースポーツ向けに採用された電源系機器に対しても知見がある。産業機器用の複雑な電源制御を含め約30年の実績や経験が、今回のSAR衛星に投入されている。
実現すれば画期的――性能の高いマイコンを新採用
ところが、地上でも宇宙でも経験豊富な同社が、初めて直面する課題があった。
「(今回のように)大電力が必要な衛星の経験はほとんどなかった。マイクロ波を発信するには相当電力が必要になる。つまり電源が肝であり、ちゃんと機能しないと電波が出せないとマイクロ波機器担当の参画企業の方にも言われました」(古賀さん)