トランプ政権のこの強硬政策を決めるのに大きな役割を果たしたのが、当時のボルトン補佐官である。完全な非核化、そして体制の転覆が彼の政策である。しかし、それにイランが応じるわけがない。

 北朝鮮に対する政策も全く同じで、単にICBMのみならず、全ての核兵器を破棄しないかぎり、制裁の解除には応じないという姿勢である。そのため、金正恩との交渉が行き詰まってしまった。

 このような事情から、トランプは、昨年9月にボルトンを補佐官職から解任したのである。そこで、イランや北朝鮮に対して、少し穏健な政策に転換することが期待されたのである。

自分の再選のために世界情勢を不安定化させる愚

 非核化は理想であるが、そこに至る過程で、核の国際管理ができれば、核戦争の防止という点では、同じ効果がある。イランをインドやパキスタンのように核武装国に追いやるか、核開発能力は温存させても核兵器は作らせないという国際的合意を形成するか、後者もまた意味のある選択肢なのである。

「0か100か」という極端な選択肢では、相手のある外交交渉は上手くいかない。世界の安全に寄与できれば、適切な核管理でも歓迎するという柔軟な姿勢が必要である。トランプには、非核化と核管理の区別がよく理解できていないようだ。

 ソレイマニ司令官殺害という決定は、ボルトン流の強硬姿勢に戻ることを意味し、政策の一貫性が全く見られないのである。そのボルトンは、今回の司令官殺害をイランの今の体制を転覆させる第一歩だと述べて歓迎している。

 そもそも、トランプは中東におけるアメリカのプレゼンスの重要性を理解していないようである。シリアから米軍を撤退させる命令を出して、IS掃討作戦で協力したクルド人を突き放してしまった。また、中村哲医師が殺害されたアフガニスタンでは、タリバンなどの反政府武装組織が活動中で治安が改善されていないが、トランプはタリバンと交渉して1万4000人いる駐留米兵を8400人にまで削減しようと目論んでいる。

 これらは、米兵を危険な地域から帰国させれば、家族も喜ぶし、軍事費も節約できるという考えから出た政策であり、すべて再選戦略の一環である。ところが、ソレイマニ司令官殺害の結果、中東に3500人の米兵を増派せざるをえなくなっている。

 まさに一貫性のない支離滅裂な政策だという他はない。イランをどうするのか、宗教指導者が支配する現体制の転覆政策目標なのか、それすら明確ではないまま、再選のためなら何でもあれという政策では、世界の平和と繁栄は確立できないであろう。