今年4月、チャンギ国際空港の新しい観光名所「ジュエル」がオープン。世界最大の人工滝など、世界の観光客を魅了する一方、経済減速、貧困など社会問題山積で一党独裁の陰りも見える(シンガポール、筆者撮影)

 鎮まる気配を見せない香港の民主化運動が様々なところに飛び火し、アジアの政治体制を揺るがしている。

 すぐに思いつくのは、来年1月の台湾総統選だろう。

 香港の現状を台湾に“等身大”で映し出す危機感を背景に、当初、反中体制による中国投資激減などの影響で経済が低迷し苦戦を強いられていた蔡英文氏が、このままいけば再選されることはほぼ間違いない。

 そして、思わぬところにも飛び火した。

 香港同様、旧宗主国が英国で、国民の過半数が華人系、しかもアジアの金融センターの主導権争いなど長年、何かとライバル関係にあるアジアの富の象徴、シンガポールだ。

 実は、シンガポールにとって香港の争乱は経済的にプラスに働いた。

 米国で最大の投資銀行、ゴールドマン・サックスによる分析では、「香港のデモ激化で最大40億ドル(約4300億円)の資金がシンガポールに流出した」(10月公表)という。

 香港の経済的損失がシンガポールのキャピタルゲインにつながり、ライバルのシンガポールが漁夫の利を得ている実態が浮き彫りになった。

 シンガポール通貨庁(中央銀行に相当)によると、現地や外国銀行の外貨建預金は、過去最高の128憶シンガポールドル(約1兆250億円、8月現在)を記録したという。

 しかし、話がここで終わればハッピーエンドだが、そうは問屋は卸さない。