政府が必死に飛び火を食い止めようとするのも分かる。しかし、国民の間にマグマのようにたまった不満を強硬な政策で抑え続けることは難しくなりつつある。

 2015年3月に建国の父、リー・クアンユー氏が亡くなった時、旧知の間柄だった台湾の李登輝元総統はこう言い放った。

「我々、台湾は自由と民主主義を優先させたが、シンガポールは経済発展を優先させた」

 この時すでに李登輝氏はシンガポールの現在の悩みを予知していたのかもしれない。

 そして、それは改革開放以来、鄧小平国家主席(当時)の理想理念のもと、シンガポールを“先生”に選んだ中国の行く末でもある。

 香港の民主化運動が本格的にシンガポールに飛び火するかどうかは、中国の一党独裁を永続させることができるのかという問いでもある。