私はもともと気弱で、周りの評価ばかり気にしている昔ながらのサラリーマンだった。そんな私だから、未だに忘れられない苦い経験がある。
日本の金融機関に入社してまもなく、1980年代後半、不動産業界への貸付審査担当をしていたときだ。当時は日本の投機バブル真っ盛りの時期で、最盛期には不動産価格が毎月10%上昇したと記憶している。事業会社ですら、価格上昇を見込んで土地を買っては短期で売り抜け売買益を稼ぐ姿が目についた。いまからは考えられないが、頭金なし、100%借金で巨額の土地が売買された。地価が上がり続けている限り、売り手は売却益、貸し手は高い金利を稼げた。買い手も、数カ月も経てば、手数料や税金を控除しても利益を上げられた。
「異なる視点を示せない・・・」 バブルの苦い記憶
新人である私の頭に浮かんだのは、「錬金術」という言葉。当時同期と二人で不動産業界の動向について部門内で発表する機会があった。事前準備の時に、「不動産価格の上昇が止まった途端、不動産融資先はみな行き詰まるのではないか?」という発言をした途端、上司に、「お前、〇〇開発も、△△カンパニーもつぶれるというのか? それでは日本の終わりだよ」と笑われたのを今も鮮明に覚えている。
恥ずかしながら、気の小さい私はすかさず発表のトーンを穏やかに直そうとした。これに頭のきれる同期は、戸惑いを示していた。「僕らの指摘は間違っていないよね? だったら言えばいいじゃん」、とのスタンスだった。