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日本で水道工事現場を見学する筆者の加藤氏(筆者提供)

(文:加藤 崇)

 あなたがマンションを保有して、そこに住んでいるとする。数十年経ったある日、ビル建築のプロと称する人間から、「あなたのマンションは老朽化し、倒壊の危険性がある。思い切って取り壊し、新しいマンションを建てましょう」と伝えられる可能性は高い。ところが、一軒家なら想像しやすいが、マンションというのは、ロビーとエレベーター、自分の部屋以外、いったいどのようにできているのか見たことがある人は、実は少ない。日々行き来する場所にしか想像力が働かないのだ。

 多くの場合、新しく建てて住むことが多く、マンションが老朽化して倒壊する危険性のある代物に変わるなどと、僕たちの脳はとても想像できないのだ。ちなみに、日本のマンションの多くは高度経済成長期に建てられたもので、寿命が約50年ほどだ。

 いったいどういうことが起こるのだろう。

「マンションを買うときに、モデルルームで修繕積立金についての説明を受けて、真面目にそれを支払ってきた」と言う人がいるかもしれない。けれども、毎月毎年修繕を行っていれば未来永劫使用できるのだろうか。外壁やエレベーターの工事はできても、躯体の鉄筋コンクリートは必ず風化し、劣化していく。ではいつ建て替えるのか。その時、自分の区分所有権はどうなるのか。多くの人たちは、実はこうして、不安定な住まいに生きている。

目で見えないものをどう診断するか

 マンションのみならず、老朽化したインフラは社会問題だと言われて久しい。2012年の「笹子トンネル事故」、最近では2018年の大阪府「水道配管破裂」が記憶にある。

 崩落したトンネルに車や人が下敷きにされ、交通が麻痺し、水道配管が破裂して道路に水が溢れ、人々の通行が止まっている――こうした映像を見たとしても、その情報があまりにも断片的であるが故に、映像で目にする被害と、その本質的な原因との間にある「因果関係」を推定することはなかなかできない。結果として、多くの場合に「(この事故に関しては)何か特殊な事情があったに違いない」「これは特別なケースなんだ」と脳は都合よく解釈してしまう。

 しかし、だ。日々進行するインフラの劣化という現象、そして、その進行具合(スピード)を把握できなかったという背景が、必ずそこにはある。

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