(文:野嶋剛)
中国の習近平国家主席が掲げる「中国の夢」は、一言で表せば、どの国からも見下されない強国になることだ。そして現在の中国は強い。10月1日の軍事パレードの圧倒的装備を見ても、ほとんど実現したようにも見える。その点について異論は多くないだろう。
だが、その強国の夢の完成には、まだ埋まっておらず、どうしても欠かせない2つのピースがある。香港と台湾である。
中国ルールと台湾・香港ルールの大事な部分
巨大な中国から見れば、香港と台湾はまるで米粒のように見えるほど小さい。しかし、中国が政治、軍事、経済でどんどん強国に近づくほど、その求心力に逆らって、香港と台湾は遠ざかっていくように見える。
はっきりとしているのは、このわずか1年ほどの時間のなかでも、中国の目指す「国家統一」の大事業において、表看板として掲げている「一国二制度」の国際的な信用がガタ落ちになったということだ。
もともと香港や台湾において一国二制度は、香港が「適用後」で台湾が「適用前」という違いはあるとはいえ、等しく人気が低かった。しかし今回の香港の抗議行動によって、それが世界に対してもはっきりと晒されてしまった点に、深刻さがある。
強国・中国が、香港、台湾をうまくマネジメントできない。これは一体、どういう現象であり、どのように理解すればいいのだろうか。この点は、当事者たちにも混乱を与えており、香港の一連の抗議行動をめぐって、中国人と香港人が海外でも激しい衝突を繰り返している状況にも表れている。
その原因は、中国人が生きている社会のルールと香港人や台湾人が生きている社会のルールが大事な部分で全く異なっていること、そして、思い描く未来の姿が大きく違うこと。この2点に尽きるのではないかと、私は最近、考えるようになっている。
◎新潮社フォーサイトの関連記事
・「香港」は誰に殺されるのか
・香港デモを「破れかぶれ」にする絶望的「社会矛盾」
・独「シナゴーグ襲撃事件」実は激増「反ユダヤ」の凶悪化