トルコによるロシア製防空システム「S-400」の導入が、NATO(北大西洋条約機構)の結束に大きな影を落としている。
トルコが、S-400導入の意向を示したのは、2017年のことであった。
ロシアの影響力拡大を懸念する米国は、S-400を導入するなら「F-35」戦闘機の供給を停止するとの圧力をかけたものの、同年11月にトルコ側はロシアとの契約締結を発表し、今年7月にはS-400の第1陣が実際に納入された。
当初の予定では、S-400の納入開始は秋頃とされていたが、それが前倒しになったのはなるべく早期に既成事実を作ってしまおうというロシアの(そして恐らくはトルコの)意向によるものであろう。
実際、ロシアは第1陣の納入に非常事態省の輸送機まで動員しており、ロジスティクス能力の総力を挙げて納入を済ませてしまおうとしたことが窺われる。
これに対して米国は予告通り、F-35の納入差し止めを決定したが、8月にはS-400第2陣がトルコに到着しており、トルコ側はあくまでも調達を強行する構えだ。納入完了は来年4月とされている。
筆者はトルコ政治の専門家ではないので、こうまでしてトルコがS-400を導入しようとする意図には本稿では踏み込まないことにする。
一方、ロシア軍事を専門とする筆者にとって興味深いのは、ロシアの武器輸出が有する政治的な意義だ。
ロシアにとって、武器輸出は単なる経済活動ではない。
ロシアの年間武器輸出は米国に次いで世界第2位の150億ドル程度とされる一方、実際はその半分程度ではないかという推定もある。