酒を味方にした小泉純一郎、会合で体を壊した渡辺美智雄

「飲まない」「節酒」の例を紹介してきたが、酒を味方につけた政治家もいる。2005年、郵政民営化を争点にした衆院解散に打って出て、自民党を圧勝に導いた小泉純一郎はその筆頭だ。

 郵政解散を象徴する名場面がある。同年8月8日午後8時30分から、首相官邸で行われた小泉の記者会見だ。深紅のカーテンを背景に郵政民営化の是非を「国民に聞いてみたい」と述べ、「ガリレオは、それでも地球は動くと言った」と鬼気迫る表情で衆院解散断行の意義を説明した。実はこのとき、小泉は酒が入った状態だった。記者会見前、財界人との会合に出席し、「二合ほど」飲んだことを明かしている(『小泉純一郎独白』常井健一、文藝春秋)。

 小泉は、夜の会合は1軒だけと決めていた。ハシゴ酒は体に負担がかかる。小泉は、小沢とはまた違った意味で酒とうまく付き合った政治家といえる。

『秘録・自民党政務調査会 16人の総理に仕えた男の真実の告白』(田村重信、講談社)に興味深い記述がある。

<政治家は付き合いがよければ大成するというものでもない。実際、安倍晋太郎や渡辺美智雄は、会合で体を壊して早死してしまった。政治家には断る勇気も必要だということだ>

 安倍、渡辺は有力な首相候補だったが、両者とも病魔に勝てなかったという共通点を持つ。その原因が「会合で体を壊した」というのだから、酒との付き合い方が気になってしまう。

 2人がどのように酒を飲み、どれくらいの頻度で会合をしていたのか、詳細は不明だが、ある程度の類推は可能だ。例えば、政調会長時代の渡辺が夜の会合を優先するあまり、減税問題で協議を望んでいた野党から反発を招いたというエピソードが残っている。野党を怒らせてでも会合に参加したのだから、田村の指摘は的を射ている。

 安倍が竹下と総裁の座を争ったとき、安倍は「会合疲れ」で本調子ではなかったという話もある。これに対し、竹下は会合を減らし(側近らとマージャンしていたのが実態)、体調が万全だったらしい。竹下は時間ができると、事務所のソファで横になっていたぐらいだから、健康管理には気を遣っていたのだろう。

 夜の会合を重ねると、就寝時間が遅くなるし、酒量も増える。小泉のように1日1軒にするか、野中や菅のように絶対に飲まないとするなど対策は必要になってくる。

 トランプ米大統領は、まったくといっていいほど酒を飲まない。古今東西、成功する政治家ほど、酒とうまく距離を取っているようだ。

(文中すべて敬称略)