「イスラエルという国は人口が約800万人しかいません。しかしノーベル賞受賞者の20%はユダヤ人で、グーグル、フェイスブック、ディズニー、スターバックス、JPモルガンやゴールドマン・サックスなど、ユダヤ人は多くの巨大企業を創業しています。当然、非常に有力なスタートアップも多い」

 彼はコネもなく土地感もないイスラエルに飛んでブランチ(支店)を作ろうとした。現地にはスタートアップ、ベンチャーキャピタル、エンジェル投資家の一覧が掲載された書籍があり「どうぞアプローチしてください」という文化があった。そこで彼はこの本と、TOEICわずか350点の英語を頼りに、現地在住の日本人の家に3週間ほど泊まらせてもらいつつ事業を興す可能性を探った。

「でも、そんなに大変じゃなかったんです。現地で連絡を取った企業の2社に1社は会ってくれましたよ。英語だって、事前にアジェンダを作っていったら何とかなりました(笑)。

 そして、これが大きな一歩になったんです。イスラエルは常に危機的状況にあるからでしょうか、とにかくアイデアのレベルが高い。例えば水がほぼないとなれば“じゃあ海の水を飲めるようにしよう”と考え、新しい技術が生まれます。特にセキュリティに関する技術は世界随一です。そんななか当社は、様々なセンサーを活用してストレスの数値化に挑むスタートアップや、2次元のデータを3次元データに自動で変換できるスタートアップと日本企業の協業、といった様々な事業を支援することになりました」

 こうしてサムライインキュベートは「イスラエルのスタートアップを支援する」という独自の事業領域を持つようになった。同社の企業理念は「できるできないでなく、やるかやらないかで世界を変える」。鍵のありかを見抜き、そして、コネや経験がなくとも突っ込んでいく、それが榊原氏が提唱する新しい企業の姿なのかもしれない。