オープンイノベーションを実行に移していくには、どうしたらよいのだろうか。

 オープンイノベーションの重要性は理解しているが、思っているよりも難しい――。

 消費者の嗜好や社会課題の複雑化に伴い、企業が提供すべき価値が多様化している昨今、自社単独でのイノベーションの限界は、多くの企業が認識しているところだ。しかし、イノベーションの力学は、既存事業を安定的・効率的に成長させるための力学とは大きく異なっており、仕組みや施策を掲げるだけではアイデアは生まれず、アイデアが出てきたとしてもいとも簡単に頓挫してしまう、という事実にも、そろそろ多くの企業が気づき始めているのではないだろうか。

 特に日本の経済成長を支えてきた製造業は、まだ多くがオープンイノベーションに関心を持ちつつも二の足を踏んでいる状況にある。その進展には、企業戦略の文脈からオープンイノベーションの位置付けを俯瞰し、その意味合いや今後の発展余地についてリアルな事例を踏まえた議論を客観性のある形で深める必要があるだろう。

 そうした問題意識から、アクセラレータープログラムを提供するCrewwと、企業のイノベーション戦略支援に強みを持つコンサルティングファームArthur D. Little(ADL)がコラボレーションし、JVCケンウッドの事例を取り上げ解説する記事を、3回に分けてお届けする(Crewwの矢野とADLの松岡が共同で執筆する)。

 初回に当たる本稿では、JVCケンウッド DXビジネス事業部 テレマティクスサービス部 副部長 真島太一氏へのインタビューを紹介する。第2回はその対話を踏まえたイノベーションの成功要件、第3回ではオープンイノベーションのあるべき姿を考察する。

「権限委譲」が広がりとスピードを生む

――JVCケンウッドにおける社外との共創の取り組み、またCrewwのアクセラレータープログラムの実施に至った経緯や背景を教えてください。(矢野)

真島太一氏。株式会社JVCケンウッド DXビジネス事業部 テレマティクスサービス部 副部長。新入社員で当時のケンウッドに入社、携帯電話部門でベースバンドおよび音質改善の技術者として従事。その後、F1のマクラーレンへの無線機開発や新規デジタル無線システムの標準プロトコル策定など、社内でも新規分野の開発を担当。2015年に経営企画部へ異動した後、新事業創出を目的としたソリューション開発部を4名からスタートし本年4月にDXビジネス事業部へと拡大させたメンバーの一人。